ストリップ界に生きる女たちの悲哀と強さを、虚実ないまぜに描いた日活ロマンポルノを代表する名作の一つが1972年10月に公開された『一条さゆり 濡れた欲情』です。
監督・脚本を神代辰巳が務め、キネマ旬報の日本映画ベストテンで第8位、映画芸術ベストテンで第2位を獲得するなど、70年代の日本映画を代表する名作の一つとして、極めて高い評価を得ています。
ここでは、そんな映画『一条さゆり 濡れた欲情』のあらすじやキャスト、さらに一条さゆりの生涯とその真実を紹介しつつ、レビューしたいと思います。
70年代の邦画界を代表する日活ロマンポルノの名作『一条さゆり 濡れた欲情』
映画『一条さゆり 濡れた欲情』は、伊佐山ひろ子扮する若い新人ストリッパー・はるみを主人公に、伝説のストリッパー・一条さゆりの生きざまを絡めて描きます。
主な舞台は、大阪の野田にかつて実在した「吉野ミュージック劇場」。
実際に一条さゆりの引退興行が行われたストリップ劇場であり、公然わいせつで本作撮影中もまさに裁判の真っ只中だった一条さゆりが本人役で出演し、お得意の「緋牡丹お竜」ショーなどを披露します。
1.あらすじ
大阪の野田にあるストリップ劇場で行われている一条さゆりの引退興行。そこにはまだ若いストリッパーのはるみも出演していましたが、さゆりをライバル視して嫉妬し、またレズショーの相棒・まりともいざこざを起こします。
はるみのヒモだった・大吉がまりの情夫・勇を刺してしまうなど、警察沙汰になろうともめげず、はるみはしたたかに立ち回ってストリッパーとして独り立ちしていくのでした。
はるみが立派にショーをやり遂げ、さゆりの引退興行もいよいよ終わりに近づいていたとき、ついに警察が踏み込んできて……。
2.監督を務めた神代辰巳
神代辰巳(くましろたつみ)は1927年4月24日、佐賀県生まれ。早稲田大学卒業後、映画業界に入り、本作および翌年の『四畳半襖の裏張り』で日活ロマンポルノを代表する監督となりました。
1974年に東宝で製作した『青春の蹉跌』が高い評価を得るなど、一般映画やテレビドラマでも活躍。萩原健一と組んだ『もどり川』や『恋文』など数々の秀作を手がけました。
1995年2月24日、67歳で他界しています。
3.一条さゆりについて(釜ヶ崎と晩年・死因)
一条さゆりは、1929年6月10日、新潟県生まれ。戦後、パンパンやホステスを経てストリッパーとしてデビューしたのち、駒田信二の小説『一条さゆりの性』が世に出たことで広く知られる存在となりました。
テレビの人気番組「11PM」の準レギュラーを務めるなど、一時は一世を風靡。しかし、ストリッパーとしては公然わいせつ罪で9度検挙されるなど、反体制運動の象徴にまつり上げられたことも……。引退興行中の1972年5月にも現行犯逮捕され、最高裁まで争った末に、和歌山刑務所で1か月の懲役刑に服しています。
ストリッパー引退後も、間夫に放火されて大火傷を負うなど波乱の半生を送り、生活保護で暮らす貧困と孤独の中、1997年に大阪の釜ヶ崎で68年の生涯を終えました。
死因は肝硬変とされています。
実際に晩年の一条さゆりと交流のあった加藤詩子が書いた伝記『一条さゆりの真実』によると、公言していた彼女の生い立ちや経歴には嘘が多く、相当の虚言癖の持ち主だったことが暴露されています。
本著作は、読み応えがあっておすすめです。
4.その他キャスト
・はるみ/伊佐山ひろ子
主人公のはるみを伊佐山ひろ子が演じ、見事キネマ旬報主演女優賞に輝きました。本作と同年に公開された『白い指の戯れ』も傑作として知られています。
その後は、一般映画やテレビドラマでも活躍。個性派女優として、独特の存在感を発揮しています。
・まり/白川和子
はるみのレズビアンショーの相手をつとめるストリッパーのまりを、白川和子が演じています。
白川和子はピンク映画からスタート。日活ロマンポルノの記念すべき第一作『団地妻 昼下がりの情事』の主演女優に抜擢され、その後は文字通り女王的存在として活躍しました。
テレビドラマや一般映画への出演も多く、現在はワハハ本舗に所属しています。
・大吉/粟津號
はるみの情夫である大吉を演じたのは粟津號(あわづごう)です。
日活ロマンポルノを代表する男優であったと同時に、NHK大河ドラマや刑事ドラマでも名バイプレーヤーぶりを発揮する実力派でした。2000年に54歳で死去しています。
・勇/高橋明
まりの情夫である勇を演じた高橋明も、日活ロマンポルノになくてはならない男優として多数の作品に出演しました。
強面で屈強な肉体から醸し出すセックスアピールは随一。2011年に他界しています。
『一条さゆり 濡れた欲情』の解説・感想レビュー
誰もが認める日活ロマンポルノを代表する傑作の一つが『一条さゆり 濡れた欲情』である。
監督は神代辰巳で、関西ストリップ界の女王として君臨していた伝説のストリッパー一条さゆりが本人役で出演する。
猥褻物陳列罪で、何度も警察に検挙されながら、毅然と最後の舞台に立つ一条さゆりの姿が描かれる一方、事実上の物語の主人公ともいえるのが、伊佐山ひろ子扮する一条に張り合う新人ストリッパーのはるみである。
はすっぱで、しみったれていて、男にだらしない、滑稽極まる女を演じた伊佐山ひろ子が抜群に上手い。とっかえひっかえ着る安っぽい衣装もぴったりだ。
表向きはおべんちゃらを並べながら、裏で意地汚く悪口を言いまくる。とはいえ、せいぜい草履を隠したり、楽屋の鏡に落書きしたり、平気でうそをついたり、といった軽いイタズラ程度で、心根では一条に憧れているのは明らかである。
はるみのキャラクターはもちろんフィクションだが、実は、この女も一条の持つもう一つの顔を象徴させた存在だったのかもしれない、とすら思えてくる。
共演は他に、伊佐山とレズプレイを演じながらそりが合わないストリッパーのまり役に白川和子。女3人の体当たりの演技が本作を支えている。
かたや、高橋明や粟津號らロマンポルノに欠かせなかった男優陣が相手役を務めているのも見逃せない。高橋明が歌う「ナカナカづくし」など、一度聴いたら耳について離れないだろう。
脚本家の笠原和夫は、本作に強いインスピレーションを得て『仁義なき戦い』を執筆したというエピソードは有名な話だ。
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