『エゴイスト』高山真の原作との違い・映画のその後と実話

エゴイスト・高山真 映画

一人のゲイの愛とエゴを描いた高山真の同名自伝小説を原作として、2023年2月10日に公開され話題よんだ映画『エゴイスト』。

主人公を演じた鈴木亮平、その相手役の宮沢氷魚、それぞれの父と母を演じた柄本明や阿川佐和子らキャスト陣の演技も素晴らしく、非常に高い評価を得た作品です。

本記事では、映画と原作小説の違い、そして高山真のブログや関係者の証言などからわかる、映画のその後、そして知られざる実話をご紹介したいと思います。

ネタバレがありますので、ご注意ください。

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映画『エゴイスト』について

エッセイストとして人気を博していた高山真が、2010年に発表した自伝的小説が『エゴイスト』です。ドキュメンタリー作品で定評のある松永大司監督がメガホンをとりました。

原作者の高山真が、映画化を知りながら、公開前の2020年に急逝したこと、またその他主要登場人物もすでに故人であることも相まり、映画の感動とはまた違う、やるせなさにも近い感傷を呼び起こす作品です。

あらすじ、主要登場人物とキャスト、ロケ地については、別の記事でくわしく紹介していますのでご覧ください。

ただし、上記記事はネタバレなしですから、結末までを含めたあらすじに関しては、あらためて以下にご紹介します。

■ネタバレありのあらすじ

千葉の田舎町で、中学のときに母を亡くし、またゲイであることでいじめと孤独な思春期を過ごした浩輔

今や東京の豪華なマンションに暮らし、ファッション誌の編集者として、またゲイの友人たちに囲まれ、忙しくも華やかな日常を送っていましたが、ある日、友人の紹介でパーソナルトレーナーの龍太と出会います。

華やかさとは裏腹にどこか虚勢を張って生きている浩輔は、古びたアパートに暮らしながら、病弱な母・妙子を支えるため懸命に働く龍太に惹かれ、2人はすぐに愛し合うように……。

しかし、突然、龍太から切り出された別れの言葉。実は、龍太の本当の仕事は、体を売ってお金を得る売り専(男娼)であり、真剣な恋愛との両立が難しいというのが別れの理由でした。

浩輔は龍太に月10万円をサポートする専属を申し出ます。龍太も受け入れて売り専をやめ、肉体労働の仕事をしながら、2人は関係を深めていくのですが……。

母の介護をする龍太のために購入した中古車が納車された日、浩輔は、龍太急死の知らせを受けとります。

通夜の席で取り乱した浩輔に、妙子は、2人が愛しあっていたことを以前から知っていたこと、そして今まで龍太と自分にしてくれたことに対し、心からの感謝の言葉を口にするのでした。

その後も、浩輔は妙子のアパートにたびたび通い、金銭的な援助も続けます。やがて入院し、瀕死の妙子に寄り添い、優しく手を握る姿で映画は終わります。



原作小説について

小説『エゴイスト』は、2010年9月、浅田マコト名義で単行本として出版。2020年の原作者没後、2021年の電子書籍化に合わせ、著者名が高山真に変更されました。

2022年8月には文庫化され、あらたに鈴木亮平があとがきを寄せています。

小説を読むとはっきりと見えてくる本作のテーマは、以下の一文が端的に表していると思われます。

「僕は、自分の物語のために、龍太を金で買った。それはどこまでも傲慢な行為だと知っている。けれど、龍太の母は、僕の母とは違って、まだ生きている。まだ生きている人のために、他人の僕が何かしたいと思うのは、やはり傲慢なのだろうか。」

引用:『エゴイスト』、著者・高山真、発行・小学館

また、龍太の通夜の席で泣き崩れる浩輔の思いを、こう記しています。

「恋人を見送るための場所で、恋人を悼むためだけに涙を流しているのではない自分は、どうしようもなく愚かで不謹慎だと思った。」

引用:同上

「エゴイスト」という言葉の裏にあるのは「自己愛」。果たして相手に対する純粋な愛情とエゴや自己愛は、明確に区別できるものなのか?このテーマと真剣に向き合おうとした試みが、小説『エゴイスト』なのです。

2人が交際中に書かれたと推測される2作目のエッセイ集のタイトルが『愛は毒か 毒が愛か』であるのも象徴的でしょう。

原作者の高山真のプロフィールと著作

高山真に関しては、Wikipediaも存在せず、また本人の意向で一切顔写真を公開していなかったため、顔はおろか、生年月日や出身地などさまざまな点が不明のままです。版元の小学館の公式ホームページ、映画の公式ホームページなどから判明するのは、以下の簡単なプロフィールに留まっています。

1970年生まれ。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わるかたわら、2003年に『こんなオトコの子の落としかた、アナタ知らなかったでしょ』でエッセイストとしてデビュー。以後、出版社を退職し、フリーランスの編集者、エッセイストとして活躍しました。

エッセイ集としては以下の5冊の著作があります。

・『こんなオトコの子の落としかた、アナタ知らなかったでしょ』(2003年)
・『愛は毒か 毒が愛か』(2007年)
・『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(2016年)
・『羽生結弦は助走をしない』(2018年)
・『羽生結弦は捧げていく』(2019年)

浅田マコト名義で発表した小説『エゴイスト』は、時系列で言うと、エッセイ集の2作目『愛は毒か 毒が愛か』の次に発表されたものです。

亡くなったのは、『エゴイスト』の映画化がまさに進行中だった2020年秋のことでした。1970年生まれですので、50歳(誕生日がまだなら49歳)だったと思われます。

■エッセイ集『愛は毒か 毒が愛か』もおすすめ

『愛は毒か 毒が愛か』は、2つのウェブサイトに発表されたエッセイを集め、加筆修正したもの。龍太のモデルとなってる人物とまさに交際中に書かれたものであり、「R」というイニシャルであっちこっちに登場します。「R」との関係や思い、「R」の母についての既述もあり、もっと詳しく2人の関係について知りたい方は必読です。(安価なKindle版もあり)

ちなみに本エッセイの中では、「R」はバイセクシャルだと記されています。

そして特筆すべきは、このエッセイ集が発行されたのは2007年9月25日。つまり、この後、数週間後に「R」が急死してしまうのです。本エッセイで綴られる、高山真の「幸福な」時間がまもなく終わり、やがて彼の人生を決定的に変えてしまうことを思うと、とても複雑な気持ちで読み終えることになるでしょう。

本エッセイには、親友だというマツコ・デラックスとの対談も収録されており、読みごたえがあります。

映画と原作の違い

原作小説『エゴイスト』によると、2人が出会ったのは2004年秋で、龍太は浩輔の8歳下。龍太が亡くなったのは、2007年10月。そのとき龍太は27歳の若さでした。

基本的に、映画は原作に忠実に作られています。本筋とは直接関係のない些細な改変をのぞき、相違点を4か所だけご紹介します。

①映画では浩輔の実家は千葉にある設定ですが、小説では、以下の文章からおそらく瀬戸内海沿岸にあるどこかの田舎町なのかもしれません。

「東京から新幹線に乗って三時間あまり、「こだま」しか止まらない駅で降りたら、JRの在来線に乗り換えて五駅目、そこからさらにもう一本、ローカル線に十分あまり揺られたところ。」

引用:『エゴイスト』、著者・高山真、発行・小学館

②映画では、浩輔の豪華なマンションで2人は一緒に過ごし、肉体関係を重ねますが、小説で2人が関係を持つ場所はすべてホテルです。歌舞伎町のラブホテルも登場します。

③映画では、納車されたばかりの車内で、龍太の死を知らされますが、小説では、仕事が終わり、同僚と中華料理屋で食事中、なんどか着信履歴があることに気づき、席をはずして電話したことで、死を知ることになります。また、比較的さらりと描かれた映画に対し、小説の中の浩輔は激しく泣き崩れ、見かねた友人宅に身を寄せるなど、のたうち回って苦しむ姿が克明に描写されています。

④龍太が亡くなったあとも、浩輔は龍太の母の妙子と交流を続け、金銭的な援助も続けます。映画では、援助の金額が明らかではありませんが、原作では2か月ごとに20万円ずつ渡していたとはっきり書かれています。また、生活保護の申請が承認されたことから、妙子が援助を断ってきたと書かれています。

■結末は同じ?

結末は、映画も原作もほぼ同じで、病院のベッドに横たわる妙子に寄り添う浩輔の姿で終わります。

■龍太の死因は?

龍太の死因については、小説でも映画同様、はっきりと書いていません。が、その後の浩輔の言葉から、過労が原因だったと示唆されていることは明らかです。



映画のその後、知られざる実話

高山真は、2007年から亡くなった2020年まで、日記形式のブログ「高山真のよしなしごと(新)」を書き続けていました。

ここでも、自身のプライベートのことをことさら細かく告白しているわけではありませんが、小説『エゴイスト』の展開と照らし合わせ、以下の事実が確認できます。

2007年10月17日のブログに短い一文があります。

「不幸がありまして、しばらく更新ができないかと思います。」

引用:Hatena Blog 「高山真のよしなしごと(新)」2007年10月17日

不幸とは、龍太のモデルとなっている人物の急死だと思われます。10月22日には次の文章を記しています。

「友人知人しか見られないようになっているミクシィの日記に思いの丈をぶちまけて、友人からの気遣いに甘え、ようやく、徐々に眠れるようになり、徐々に食べられるようになった。ただ、年を重ねれば重ねるほど、『亡き人に対して自分がいかに何もできなかったか』という悔しさは、悲しみのすぐ後にやってくる。14歳で母を亡くしたとき、あたしは、悲しみだけを味わいながら1年ほどを過ごした。自分では早熟なつもりでいたが、とんでもない。それはどこまでも子どもらしい悼み方だったのだ」

引用:同ブログ、2007年10月22日

それからおよそ一年半後の2009年4月18日に、妙子のモデルとなった女性が亡くなったようです。

「5年間にわたったある気持ちのやり取りが、今日、終わった。願わくば、旅立った二人に平安を。そして、残ったアタシにいままでのことを振り返ることができる強さを。R.I.P.」

引用:同ブログ、2009年4月18日

「病気の母親のために身を粉にして働いていたオトコの子と出会ってから、彼のお母様が旅立たれるまで、その5年間の間に、アタシはすべてを失ったのかもしれない。でも、一生手に入らないだろうと思っていたものが手に入ったような気もする。」

引用:同ブログ、2009年12月28日

自身の体については、2014年ごろから異変があったことがわかります。ブログも1年ほど空白がありますが、どうやら2015年の春ごろに肝臓がんが見つかったようです。

「1年以上、間が空いてしまいました。ごめんなさいね。
あたくしは入退院をちょいちょい繰り返しつつ、連載分だけはなるべく書こうと努めていた感じです。
まあ、入退院がどうこう言っても、元気は元気だし、現時点でも医者から止められていることはない、ゆるーい闘病生活だったりするし、今年中にはそれなりにいい方向での展望も見えてくるはずなので、自分でも期待しているわ。」

引用:同ブログ、2015年10月18日

「このブログで先に明かしてしまいますが、あたくしの病気は肝臓がんです。お酒なんて年に2〜3度飲む程度の人間なんだけど、同じようにお酒をたしまなかった母親も肝臓を病んで30代で亡くなっているので、もしかしたら遺伝的な要因もあるのかもね。
とは言え、余命宣告が出ているわけではないし、人に会おうと思ったら全然会えるし、あたくしもまだまだしぶとくサバイブする気満々なので(略)」

引用:同ブログ、2015年12月29日

2016年の日記には、どうやら特別な存在の人物がいたことも示唆されています。龍太のモデルとなった人物と死別してから、どのような形であれ、あらたに大切だと思える関係を築いていたのは、救いに感じられます。

「恋人ではないし、ノンケですが、ダンナ。ええ、周りもそう言っているし言われた本人もニコニコしながらうなずいているし、あたくしとしても『たぶんこの先も、ずっといい関係でいるだろう』と確信しているから、もうダンナ呼ばわりです。あたくしの病気のことをめちゃくちゃ心配し、誰よりもフォローしてくれているのも、このダンナです。」

引用:同ブログ、2016年2月10日

「便宜上『ダンナ』と呼んではいる、非常に仲のいい友人から一段階、別のニュアンスを帯びた関係になったオトコ。友人のままですが、明らかにセンシュアルなニュアンスもあり、どこか家族チックのようでもあり…。」

引用:同ブログ、2016年4月4日

体調は少しずつ悪化していたのか、2017年4月に入院して手術。2018年4月にも再手術し、肝臓の3割を切除したようです。その後は、転移もなく経過は比較的良好だったようですが……。

最後のブログが2020年1月8日です。

「昨年の私は、2018年4月におこなった肝臓がんの切除手術が功を奏し、手術前には想像もしていなかったほどいい体調で1年を過ごすことができた、本当にいい年でした。
とは言え、仕事以外では体調第一を念頭に日々を過ごしています。」

引用:同ブログ、2020年1月8日

その後の経過については、高山真の友人でもあった「おじょんママ」が、自身のYouTubeチャンネル「新宿二丁目おじょんママの『だって中卒だもの』」で語っています。中から、いくつかのエピソードをご紹介します。

●新型コロナウイルスでランチ営業をしていたときも食べに来てくれた。そのとき、肝臓がんの再発を教えてくれた。

●『エゴイスト』の映画化について、「鈴木亮平が私をやりたいらしいわよ」とやたら自慢してきたが、簡単に死ねない理由ができたと喜んでいた。

●お母さんが亡くなった年齢より永く生きることができたから、未練はないと言っていた。

●お互いに女子プロレスと北斗晶の大ファン。2020年10月1日の興行に誘ったら、体調不良で行けないとの返事。当日、北斗晶とのツーショット写真を撮ることに成功し、自慢してやろうと考えていた矢先、訃報が届いた。数日前の「北斗の魂を引き継げた若い子がいてほしいわね」というのが、最後に受け取ったLineのメッセージになってしまった。

●唄が上手で、店ではいつも松田聖子の歌を好んで歌っていた。病床で声も出せなくなったとき、看病に来ていた妹さんから、流す音楽を訊かれ、そのときに選んだ曲が松田聖子の「風立ちぬ」。映画の中に、鈴木亮平が口パクでなにやら口ずさんいるシーンがあるが、実はそれは「風立ちぬ」で、このエピソードを知った監督が、それをこのシーンに盛り込んだと聞いた。

「おじょんママ」はこのほかにもさまざまな思い出話を、動画の前編・後編にわけて話していますので、興味のある方は視聴してみてください。



映画『エゴイスト』が気に入った方は、ぜひ原作小説も!

映画を観て、心動かされた方は、ぜひ原作小説の方もおすすめします。映画以上に、涙なくして読むことはできないでしょう。

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※本ページの情報は2023年10月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

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