最新作『ノマドランド』でアカデミー主演女優賞に輝いた女優フランシス・マクドーマンド。
『ファーゴ』と『スリー・ビルボード』に続き、3度目の受賞であり、アメリカを代表する演技派女優であることは間違いありません。
本記事では、そんなフランシス・マクドーマンドについて、キャリアや家族など知られざる素顔にくわえ、おすすめの代表的出演映画を6作品、見どころとともにご紹介します。
フランシス・マクドーマンドのプロフィール
フランシス・マクドーマンドは、1957年6月23日、イリノイ州ギブソン・シティに生まれました。父の仕事の関係で各地を転々し、ペンシルベニア州の高校を卒業。ウエスト・ヴァージニア州のべサニー大学、さらに1982年にはイェール大学の演劇専門スクールで修士号を取得しました。
ルームメイトだったホリー・ハンターを通してコーエン兄弟と出会い、兄弟が監督した1984年の映画『ブラッド・シンプル』で女優デビューしています。
1988年の映画『ミシシッピー・バーニング』でアカデミー助演女優賞に初ノミネート。その後しばらく低迷期が続くものの、1996年のコーエン兄弟監督作『ファーゴ』で見事アカデミー主演女優賞を受賞しました。
その後は、ヒット作・話題作への出演が続き、2017年の『スリー・ビルボード』で2度目、2021年『ノマドランド』で3度目のアカデミー主演女優賞に輝いています。
1.フランシス・マクドーマンドとホリー・ハンターの関係
1980年代初頭、フランシス・マクドーマンドは、女優のホリー・ハンターとニューヨークのブロンクスにあったアパートでルームシェアをしていました。
その後、ハンターを通して出会ったのがジョエル/イーサン・コーエン兄弟です。
マクドーマンド、ハンター、コーエン兄弟、さらに『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ監督、『ホステル』シリーズの脚本で知られるスコット・スピーゲルらは、一時ロスアンゼルスで共同生活を送っていました。
2.家族(両親・夫・子供)
フランシス・マクドーマンドは、1歳のとき、カナダ人のヴァーノン/ノーリン・マクドーマンド夫婦の養女に迎えられました。誕生名はシンシア・アン・スミス。
養父ヴァーノンはキリスト教ディサイプルス派の牧師だったため、複数の子どもを養子にとって育てており、フランシスはその一番末っ子でした。
1984年には、ジョエル・コーエン(兄弟の兄で写真右)と結婚しました。ジョエルは再婚であり、フランシスは単にもったいないという理由から、ジョエルの最初のときの結婚指輪を身につけていることは有名な話です。
以後、2人は公私にわたるパートナーとなり、フランシスはデビュー作以降も『赤ちゃん泥棒』『ミラーズ・クロッシング』『バーン・アフター・リーディング』『ヘイル、シーザー!』などの夫の作品に出演しています。
1995年にパラグアイから生後6か月の男の子、ペドロ・マクドーマンド・コーエンを養子に迎えています。
おすすめ出演映画6選と見どころ
①一躍その演技力に注目が集まった『ミシシッピー・バーニング』(1988)
1964年にミシシッピー州で発生した3人の公民権運動家殺害事件をモデルにした社会派ドラマです。
人種差別が根深く残る南部で、KKKらの過激な妨害に遭遇しながら、事件の核心に迫るFBI捜査官の姿を描きます。
タイプの異なる2人の捜査官をジーン・ハックマン、ウィレム・デフォー、そしてフランシス・マクドーマンドは、人種差別主義者の保安官の妻で、善良な美容師のペル夫人を演じました。
フランシス・マクドーマンドの類まれなる演技力に注目が集まるきっかけになった作品であり、初のアカデミー助演女優賞にノミネートされています。
②誰もが認める代表作の一つ『ファーゴ』(1996)
妻の誘拐を狂言偽装し、裕福な義父から身代金をせしめようとしたことで、予想もしなかった深刻な事態に陥ってしまう顛末を、独特のブラックユーモアを交えて描いたクライム・ムービーです。
多額の借金を抱える自動車ディーラーの夫をウィリアム・H・メイシー、運悪く殺人を犯してしまう役立たずの請負人コンビを演じるのがスティーヴ・ブシェミとピーター・ストーメア。そして、フランシス・マクドーマンドは臨月の女警察署長マージを強烈な存在感で演じ、見事アカデミー主演女優賞はじめ数々の賞に輝きました。
メガホンをとったコーエン兄弟も、カンヌ映画祭で監督賞、アカデミー賞では脚本賞を受賞しています。
「実話」とのクレジットが出ますが、実はコーエン兄弟らしいブラック・ユーモアにすぎず、すべてフィクションです。
③せつなくもみずみずしい傑作青春映画『あの頃ペニー・レインと』(2000)
1973年のサンディエゴ、「ローリング・ストーン」誌の記者に抜擢され、あるロックバンドのツアーに同行することになった15歳の少年ウィリアム。友情と葛藤、バンドの追っかけをする少女ペニー・レインとのせつない初恋などを描いた傑作青春映画です。
本作でゴールデングローブ作品賞、アカデミー脚本賞も受賞した監督キャメロン・クロウの自伝的作品です。フランシス・マクドーマンドはウィリアムの個性的な母エレインを演じ、多数の賞に輝きました。
④実話にもとづいた『スタンドアップ』(2005)
夫の暴力を逃れ、父の違う2人の子どもとともに故郷のミネソタに帰ってきたジョージー。生きていくため仕事場に選んだ炭鉱で待っていたのは露骨なセクハラ、そして家族にまで及ぶ陰湿ないやがらせでした。
屈することなく立ち上がるヒロインのジョージーをシャーリーズ・セロン、その旧友で炭鉱仲間のグローリーをフランシス・マクドーマンドが演じました。
1988年、実際に行なわれた世界初のセクシャルハラスメント訴訟を題材にしています。フランシス・マクドーマンドのリベラル思想が存分に発揮された作品でもあります。
⑤2度目の主演女優賞をもたらした『スリー・ビルボード』(2017)
ミズーリ州の田舎町を舞台に、最愛の娘を殺された母ミルドレッドが犯人探しに向け、孤独な闘いに挑む姿を描きます。
過激な行動も厭わない主人公ミルドレッドを演じたフランシス・マクドーマンドが、2度目のアカデミー主演女優賞に輝いたほか、レイシストの巡査を演じたサム・ロックウェルが助演男優賞を受賞しています。
実話ではなくフィクションで、主人公はフランシス・マクドーマンドを最初から想定して人物造形されました。
⑥アカデミー賞作品賞に輝く『ノマドランド』(2021)
フランシス・マクドーマンドが主演のみならず製作も手掛けた2021年公開の映画が『ノマドランド』です。リーマンショックによって急増したと言われる、各地を転々とする車上生活者たちの姿を、アメリカ西部の大自然を舞台に描いた社会派ドラマです。
ヴェネツィア国際映画祭で最高賞の金獅子賞やアカデミー作品賞など、さまざまな映画祭を席捲した作品であり、車上生活者となるファーンに完全になりきったマクドーマンドの演技も絶賛されて3度目のアカデミー主演女優賞という栄誉をもたらしました。
本作の詳細については下記の記事に詳しくまとめてあります。
映画以外での活躍
フランシス・マクドーマンドは、映画のみならず、演劇でトニー賞、テレビドラマでエミー賞も受賞しており、いわゆる三冠を達成しています。 (2020年現在、三冠に輝いた女優は、イングリッド・バーグマン、オードリー・ヘップバーン、最近だとヴィオラ・デイヴィスら17人のみ)
演劇では1988年に『欲望という名の電車』でヒロインの妹ステラを演じ、トニー賞初ノミネート。2011年に『Good People』で主人公のシングルマザーを演じ、主演女優賞に輝きました。
おすすめの傑作ドラマ『オリーヴ・キタリッジ』(2014)
テレビドラマでは、2014年に放送された全4話のミニシリーズ『オリーヴ・キタリッジ』で気難しい中学の数学教師を演じ、エミー賞主演女優賞に輝いています。
夫を演じたのは名優リチャード・ジェンキンス。作品は、その年のエミー賞では最多主要6部門を独占しています。
日本ではAmazonプライムビデオなどで視聴可能です。
アカデミー賞授賞式でのスピーチが話題に!
『スリー・ビルボード』で2度目のアカデミー主演女優賞に輝いた際の受賞式におけるスピーチは、大きな話題になりました。
まず、メリル・ストリープら会場にいた女優や女性スタッフたちを立たせて、その仕事ぶりを讃えたあと、最後に伝えたいメッセージとして言及した聞きなれない言葉が「Inclusion Rider」でした。
※「Inclusion Rider(インクルージョン・ライダー)」とは?
「インクルージョン」は、「多様性(ダイバーシティー)」とも繋がる言葉で、直訳すると「包括」。一方、「ライダー」とは契約などの付加条項のこと。
つまり、映画などを制作する場合、キャストやスタッフの中に、女性や有色人種、LGBTQ、障害者などをある程度の割合で含む必要があるというものです。
2016年に南カリフォルニア大学アネンバーグ・スクールで、こういったイニシアティブを創設したステイシー・スミスが、有名コンファレンス「TED」において最初に提唱しました。
唯一無二の女優、フランシス・マクドーマンド
『ノマドランド』が大絶賛され、3度目のアカデミー主演女優賞という快挙を成し遂げたフランシス・マクドーマンド。2023年時点の最新作は、サラ・ポーリー監督作『ウーマン・トーキング 私たちの選択』です。
これまでの出演作品からわかるように、社会的弱者の側にたった政治的メッセージ性の強い役柄を好み、得意としています。
その意味で、他の女優達とは一味違う女優だと言えるでしょう。
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