イタリア映画としては異例の、1970年の洋画興行収入第5位のヒットを記録し、多くの日本人を涙で濡らした感動の名作『ひまわり』。
ロケ地となった広大なひまわり畑が、実はウクライナで撮影され、2022年、そこにロシアが侵攻したという事実が伝えられたことで、今、本作に再び注目が集まっています。
本記事では、そんな映画『ひまわり』について、簡単なあらすじなど概要、キャストのその後と現在、ロケ地や裏話を紹介したのち、個人的感想を交えてレビューしたいと思います。
イタリア映画を代表する名作『ひまわり』(1970)
イタリアが誇る世界的巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督、アカデミー主題歌賞を複数回受賞していたヘンリー・マンシーニの音楽、そしてソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニという二大スターの名演によって、映画史に残る感動の名作となった『ひまわり』。
実は、製作自体はイタリア・フランス・ソ連・アメリカの合作。とりわけ、ソ連の協力が得られたことは当時として異例であり、冷戦期のソ連で初めて撮影された西側の映画だと言われています。
イタリアとロシア、そしてウクライナがロケ地となっています。
あらすじ
第二次世界大戦の戦時中、ナポリ出身のジョバンナと、出征を控えたアントニオが恋に落ちて結婚。2人は、仮病を使って徴兵を免れようとしたものの、それが見つかり、より過酷なソ連戦線へと送られてしまいます。
ジョバンナはひたすら夫の帰還を待ち続けますが、終戦になっても一向に戻らず、自らソ連に向かい、アントニオを探す旅に出るのですが……。
ようやく、アントニオの消息に辿りつき、広大なひまわり畑を歩いていった先にジョバンナが見たのは、美しいロシア人女性と結婚し、一人娘とつつましやかに暮らすアントニオの姿でした。
主要キャスト3人のその後と現在
①ジョバンナ/ソフィア・ローレン
ソフィア・ローレンは、1934年9月20日、イタリアのローマ生まれ。15歳のとき、「ミス・イタリア」コンテストのファイナリスト3人に残り、優勝は逃したものの「ミス・エレガンス」に選ばれたという経歴があります。
1950年代初頭から、端役ながらさまざまな映画に出演するようになります。当初の肉体派から次第に演技派へと脱皮。1958年の『黒い蘭』でヴェネチア映画祭女優賞、1960年の『ふたりの女』で米アカデミー賞主演女優賞を受賞し、国際的な女優としての名声を不動のものとしました。
その後は、世界的女優として欧米を股にかけ、数々の作品に出演。80歳代後半となった今も現役で、新しいところでは2020年にNetflixオリジナル映画として配信された『これからの人生』に主演しています。
私生活では、駆け出し時代の後ろ盾でもあった映画プロデューサーのカルロ・ポンティと不倫の末、1966年に正式結婚。息子が二人おり、長男は指揮者となったカルロ・ポンティ・ジュニア、次男は映画監督のエドアルド・ポンティです(映画『これからの人生』も監督)。夫は2007年に死去。ローマとナポリに自宅を所有していると言われていますが、2006年よりスイスのジュネーブに在住しているようです。
②アントニオ/マルチェロ・マストロヤンニ
マルチェロ・マストロヤンニは、1924年9月28日、イタリアのフォンターナ・リーリ生まれ。第二次世界大戦時には、実際にイタリア軍の兵士として従軍していました。
戦後、本格的に映画界に飛び込み、多くの巨匠の作品に出演するようになります。フェデリコ・フェリーニ監督による1960年の『甘い生活』と1963年の『8 1/2』、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の『昨日・今日・明日』など、やがてイタリアを代表する俳優として国際的に広く知られるようになりました。
1970年の『ジェラシー』と1987年の『黒い瞳』で、カンヌ国際映画祭男優賞を二度受賞しているほか、欧米各国で様々な受賞・ノミネートを誇る名優として活躍しました。
1996年12月19日、パリの自宅ですい臓ガンにより72歳で死去。遺作は、追悼映画として公開された『世界の始まりへの旅』です。
1950年に結婚して一女をもうけ、1964年に離婚したイタリア人女優のフローラ・カラベッラだけが正式な妻ですが、その後は多くの女性と恋愛関係を持ちました。フェイ・ダナウェイ、アニタ・エクバーグ、ソフィア・ローレン、カトリーヌ・ドヌーヴなどが名を連ね、ドヌーヴとの間にもうけた娘が女優のキアラ・マストロヤンニです。ドヌーヴとキアラが、臨終を看取ったと言われています。
没後10年となる2006年には、生涯を描いたドキュメンタリー映画『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』が公開されました。
③マーシャ/リュドミラ・サベーリエワ
アントニオのロシア人妻マーシャを演じたリュドミラ・サベーリエワは、1942年1月24日、ソ連/ロシアのレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)生まれ。バレエ学校を卒業後、歌劇場の一員となり、1964年の映画『眠れる森の美女』でデビューしました。
その後、大作『戦争と平和』のナターシャ・ロストワ役に抜擢され、作品は1968年の米アカデミー外国語映画賞を受賞、自身もロシア国際映画祭で賞を受賞するなど、一躍世界的に広く知られる女優となります。そんな中、出演したのが本作でした。
その後は、母国ロシアの映画やテレビドラマに多数出演していましたが、2009年の作品を最後に事実上の引退状態にあるようです。
2023年8月現在、81歳。1965年に結婚した俳優のアレクサンドル・ズブルエフとの間に娘が一人います。
映画『ひまわり』のロケ地とウクライナ
①アントニオとジョバンナの幸せな結婚時代
アントニオが徴兵される前の幸せな時代が撮影されたのは、イタリア・ロンバルディア州パヴィーア県ベレグアルドです。アントニオが仮病のふりをするのは、マルコリーニ広場。
また、二人が結婚式を挙げる教会は、ファッラヴェッキアにあるカトリック教会の「Chiesa di San Giorgio a Fallavecchia」です。(Via Ospedale Maggiore, 23)。
いまだ当時の建物が残っているのはさすがヨーロッパです。
②ひまわり畑
映画の重要なシーンとなっているひまわり畑は、ウクライナのポルタヴァ州チェルニチー・ヤール村で撮影されました。
一部に、ヘルソン州と書かれているものがあるようですが、どうやら事実ではないようです。
③ミラノに戻ってきたアントニオが、ジョバンナに電話するバー
再びミラノに戻ってきたアントニオが、ジョバンナに電話して会いたいと伝えるバーは、ミラノの中央駅すぐ近くに実在する「カフェ・ピッティ(Caffè Pitti)」です。(Via Giovanni Pierluigi da Palestrina,40)。
現在は閉店した模様ですが、やはり建物や外観はそのまま残っています。
④二人が別れるラストシーンの駅
ラストシーン、アントニオとジョバンナが悲しい別れをする駅は、ミラノ中央駅です。アントニオと娼婦の会話の中に、「ガリア」というホテルの名前が出てきますが、実際、駅の前に実在します。
知られざる秘話・裏話
①ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニの共演作は?
ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニはなんと13作品で共演しています。
『A Slice of Life』 (1954)
『Too Bad She’s Bad』(1954)
『The Miller’s Beautiful Wife』(1955)
『昨日・今日・明日』(1963)
『ああ結婚』(1964)
『Ghosts – Italian Style』(1967)
『ひまわり』(1970)
『結婚宣言』(1970)
『Sex Pot』(1975)
『特別な一日』(1977)
『Blood Feud』(1978)
『プレタポルテ』(1994)
英題のものは、おそらく日本未公開の作品かと思われます。
②ジョバンナの赤ちゃんは?
終盤に登場するジョバンナの赤ちゃんは、ソフィア・ローレンの実の息子カルロ・ポンティ・ジュニアです。
既述の通り、本作の撮影時、プロデューサーだったカルロ・ポンティとはまだ正式な結婚に至ってはいませんでしたが、二人の間にはすでに子どもがおり、それがこの赤ちゃんです。
③オリジナルフィルムは消失
『ひまわり』は、本国イタリアでもオリジナルネガが消失しており、ポジフィルムしか存在していません。日本において、2011年、2015年、そして2020年に50周年を記念した3度目の修復が、最新技術を駆使して行われました。
最新の修復版が、ときおり、日本各地の映画館で上映されていますので、機会があればぜひ大画面でご覧ください。
映画『ひまわり』の感想レビュー
今さら説明するまでもない、ヴィットリオ・デ・シーカ監督によるイタリア映画の傑作。何度でも観るたびに感動するのだが、その度合いは、歳とって人生経験を積むたびに、どんどん深くなっていくようである。
戦線で行方不明になった夫アントニオを探して、ソ連を放浪するイタリア女性ジョバンナ。
大地に広がる広大なひまわり畑が見事に、この映画のテーマを象徴する。
ひまわりの下には戦争で死んだたくさんの兵士たちが眠っているということ、そして、まるで男性を求める女性のように、太陽に向かって咲くひまわりの花。
反戦映画であり、同時に珠玉のラブストーリーでもある。
やっと見つけた夫が、見ず知らずのロシア人女性と結婚し、子供までもうけていたという過酷な現実。ヘンリー・マンシーニの有名なテーマ曲が流れる、駅での再会シーンを、涙なくして観ることができる人がいるだろうか?
数年後、今度はアントニオがジョバンナに会うため、ミラノを訪れる。
お互いにまだ愛の残っている二人、一瞬二人で逃げようかとの思いが頭をよぎる。
しかし、その衝動を、制止するものがあった……。
愛だけで生きてゆけないと知っている、どこまでも大人の男女の物語だ。
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