映画『スケアクロウ』あらすじ/キャスト/考察/隠れた秘密と意味

スケアクロウ 映画

1973年に公開され、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝くなど国際的な評価も得たアメリカ映画『スケアクロウ』。

ジーン・ハックマンとアル・パチーノが主人公の男二人を演じたアメリカン・ニュー・シネマを代表する傑作ロードムービーの一つです。

「スケアクロウ」とは「案山子(かかし)」の意味。

そんな本作のあらすじ、キャストにくわえ、見どころと隠された秘密を、考察・レビューしたいと思います。

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アメリカン・ニュー・シネマの傑作『スケアクロウ』

アメリカン・ニュー・シネマとは、1960年代後半から1970年代半ばにかけ、ベトナム戦争や学生運動、ヒッピーなど当時の社会的世相を背景にうまれた、一連のアメリカ映画を指します。

反体制や不条理への抵抗、アンチ・ヒーローなどがテーマとなっていることが多く、代表的な作品には『俺たちには明日はない』『卒業』『イージーライダー』『いちご白書』などがあります。

1973年に公開された『スケアクロウ』は後期を代表する作品の一つです。

あらすじ(ネタバレ)

暴行傷害で6年の服役を終え、出所してきたマックスと、5年の船乗り生活から陸に戻ってきたライオン。それぞれヒッチハイクしようして偶然出会い、意気投合し、一緒に旅をすることになります。

マックスは、ピッツバーグに行き、洗車業を営むことが目的。一方のライオンは、デトロイトにいる昔の女アニーとまだ見ぬわが子に会うため。

二人は、先にデトロイトに立ち寄ってから、ピッツバーグで洗車業を共同で営む約束をします。

ところが、道中、マックスの妹コーリーの家に立ち寄った際、バーで暴力沙汰を起こし、2人して矯正施設送りとなってしまうのでした。そこで、ライオンは、古株の受刑者ライリーに暴行を受けますが、マックスが仕返し。一か月後、二人はようやく出所します。

以下、結末ネタバレ。

デトロイトに到着したライオンは、アニーと連絡をとりますが、アニーはすでに2年前に結婚しており、息子も産まれる前に死んだと嘘をつくのでした。ショックから、精神的に錯乱し病院に運ばれたライオンは、統合失調症を発症したと診断されてしまいます。

マックスは、往復チケットを買い求め、ピッツバーグに向かいます。洗車業のために貯めたお金を引き出し、ライオンの面倒をみるためでした……。



主要登場人物とキャスト6人

①マックス/ジーン・ハックマン

ジーン・ハックマンは、1930年1月30日生まれ。本作の2年前に出演した『フレンチ・コネクション』で見事にアカデミー主演男優賞を受賞、その翌年には大作『ポセイドン・アドベンチャー』に主演するなど、最も脂の乗り切った頃の作品です。

その後も数々の作品に出演してきましたが、2004年公開の映画『ムースポート』を最後に、映画出演からは遠ざかっています。

一度離婚し、1991年に再婚した現在の奥さんは、日系人女性でピアニストのベッツィ・アラカワです。

②ライオン(フランシス)/アル・パチーノ

アル・パチーノは、1940年4月25日生まれ。 本作の前年に『ゴッドファーザー』に出演し、アカデミー助演男優賞にノミネートされるなど注目されました。

その後は、アメリカ映画を代表する演技派して不動の地位を確立。1992年の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で、満を持してアカデミー主演男優賞に輝きました。

2019年にはNetflixオリジナル映画『アイリッシュマン』に出演し、今なおいぶし銀の演技をみせています。2023年6月には、83歳にして、29歳の恋人の間に子どもが生まれることが発覚し、大きな話題になりました。

③コーリー/ドロシー・トリスタン

マックスの妹が、ドロシー・トリスタン演じるコーリーです。

ドロシー・トリスタンは、モデルからスタートし、70年代を中心に女優として活躍しました。その他、代表的出演作品には、1971年の『コールガール』があります。2015年の映画『The Looking Glass』に久しぶりに出演しているほか、同作の脚本も手掛けています。

④フレンチー/アン・ウェッジワース

コーリーの女友達フレンチーを、アン・ウェッジワースが演じました。

アン・ウェッジワースは、有名なアクターズ・スタジオで演技を学び、1965年に映画デビューを果たしました。60年代から70年代にかけて、主に舞台を中心に活躍。2017年に83歳で他界しています。

⑤ライリー/リチャード・リンチ

矯正施設に収容されている古株がライリーです。

本作は、演じたリチャード・リンチの映画デビュー作です。60年代にドラァグの過剰摂取が原因で、全身大やけどを負ったこともあり、悪役俳優として活躍しました。2012年に72歳で急死しています。

⑥アニー/ペネロープ・アレン

ライオンの過去の女アニーを演じたペネロープ・アレンは、本作ののち、1975年の映画『狼たちの午後』でもアル・パチーノと共演しました。

主に70年代から80年代にかけて、ブロードウェイの舞台を中心に活動したほか、90年代には、『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』や『シン・レッド・ライン』など話題の映画にも出演しています。



『スケアクロウ』の解説・感想レビュー

刑務所を出てきたばかりのマックスと、長い船員生活から5年ぶりに陸に戻ってきたライオン。殺風景な荒野の道で、それぞれヒッチハイクしようとして偶然出会い、旅の道連れとなる。

某有名映画サイトのあらすじが、「ホモ・セクシュアルではない、男同士の深い友情を描いた」といきなり断定して始まっていることに、正直、驚いた。

いったい、男の深い友情と同性愛を隔てる境界線は、それほど明確なものなのだろうか。

確かに二人には肉体関係はないし、マックスは好色で複数の女と関係を持つ。ライオンも捨てた女と子どもに対する深い愛情を隠さない。それどころか、二人とも同性愛に対する嫌悪が露骨だ。

ライオンは、本名がフランシスなのだが、マックスから、おそらく女のような名前だからという理由で、そう呼びたくないと言われる。

ライオンから、女のいない刑務所ではどうやって処理をしていたのかと問われたマックスの表情が豹変する瞬間。

暴行事件を起こし1か月だけ施設で過ごすはめになった二人。ゲイの男から迫られたライオンが拒否して暴行され、マックスがその仕返しをしてやる展開など。

しかし、ホモフォビアは、往々にして、根深い、意識下のホモセクシャルの裏返しである。

廃品回収業を営むマックスの妹コーリーが、二人に最初に試すのはうそ発見器であるというのも面白い。

また、ライオンが、自分の幼い子どもが男なのか女なのか知らないというのも、何やら意味深ではなかろうか。

マックスは、穴の開いた汚い衣類を何枚も重ね着しているのだが、それはまるでスケアクロウ(案山子)そのものを連想させる。実際、酔っぱらって、自身を案山子だと自虐するシーンがある。ライオンも、マックスから似た者同士で案山子呼ばわりされる。

「カラスは案山子を怖がっているんじゃない。笑っているんだ。そんなおかしなやつの畑を荒すのはやめようと思うだけなんだ」

嘲笑の対象である、滑稽な道化師として存在する案山子を思うとき、当時アメリカのゲイたちが置かれていた状況と、自分は重なる。

もう一つ、案山子とライオンといえば、『オズの魔法使い』でドロシーと共に旅をする仲間の二人だ。

『オズの魔法使い』が、アメリカにおいて重要なゲイのアイコン的映画であることを考えると、二人の関係と物語の裏側に微かなゲイの匂いを感じるのは、あながち間違いではないような気がしてくる。

それどころか、終盤の展開は、単なる男の友情では説明がつかず、もっと深い何かだったと見ないと、あまりに不自然に自分には思える。

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