映画『(秘)色情めす市場』のあらすじ・感想レビュー:芹明香のリアル

(秘)色情めす市場 映画

神代辰巳と並ぶ日活ロマンポルノを代表する監督・田中登が1974年に発表した作品が『(秘)色情めす市場』(まるひしきじょうめすいちば)です。

かつて赤線地帯だった大阪の釜ヶ崎を舞台に、そこに生まれて生きる一人の若い娼婦の孤独と覚醒を、モノクロのリアルなタッチで描きました。

熱狂的なファンも多いと言われる『(秘)色情めす市場』について、あらすじやキャスト情報を紹介しつつ、レビューしたいと思います。

日活ロマンポルノを代表する傑作の一つ『(秘)色情めす市場』(R-15)

公開から45年もたった2019年になって、オリジナルサウンドトラックのCDが発売されるという異例の対応がなされるなど、今なお熱狂的なファンを抱える『(秘)色情めす市場』。

日活ロマンポルノのみならず、間違いなく日本映画史に残る名作の一つだと言っていいでしょう。

実際に、釜ヶ崎や飛田新地、通天閣などでロケが行われており、70年代の風景がそのままリアルにとらえられている点も大きな見どころです。

1. あらすじ

釜ヶ崎の粗末な長屋に暮らす19歳の丸西トメは、知的障害のある弟・実夫(さねお)の面倒をみながら、客をとって日銭を稼いでいます。

トメは、女将が取り仕切る小料理屋の2階で客をとっていましたが、喧嘩別れして街娼に……。短気で金に汚い母親のよねも年増の娼婦であり、仕事にあぶれたり、トメに客をとられたりして、いさかいが絶えません。

強盗殺人の指名手配犯かもしれない男と出会ったり、よねから堕胎するための金をせびられたりする中、唯一トメが心を許してきた実夫の身に悲劇が起こります。

2. 監督・田中登について

メガホンをとった田中登は、1937年8月15日長野県生まれ。大学卒業後、日活に入社し、ロマンポルノ路線スタートとともに、その主軸を担いました。

『実録阿部定』など3作品がキネマ旬報年間TOP10に選ばれたほか、『人妻集団暴行致死事件』で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞するなど、作家性の強い演出で極めて高い評価を得ました。 

80年代はフリーの監督として、テレビの2時間ドラマを多数手がけていましたが、2006年に69歳で死去しています。

3. ヒロインを演じて伝説と化した女優・芹明香

ヒロインの丸西トメを演じた芹明香(せりめいか)は、1954年1月14日、島根県出雲市生まれ。地元の高校を中退し、大阪でヌードモデルなど様々な職を転々としていたところを芸能事務所にスカウトされました。

1973年に映画『やさぐれ姐御伝 総括リンチ』でデビュー。日活ロマンポルノ作品のほか、一般映画やドラマにも出演し、短い出番であっても常に印象的な存在感を発揮してきました。

(秘)色情めす市場』は文字通り芹明香の代表作であり、本作にインスパイアされた深作欣二が名作『仁義の墓場』を製作。芹明香もキャスティングされて渡哲也と有名な薬漬けのシーンを演じています。

2000年に入ってからは事実上の引退状態にありましたが、たびたび名画座で芹明香特集が組まれるなど今なお根強い人気を誇ります。

 2016年には、シネマヴェーラ渋谷で「芹明香は芹明香である!」と名付けられた特集上映が組まれ、久々に本人が姿を見せて大きな話題になりました。

4. その他キャスト

丸西よね/花柳幻舟

丸西トメのだらしない母・ヨネを花柳幻舟が演じています。

早くに日本舞踊花柳流名取となりながらも、傷害事件やテロ行為を起こして実際に服役するなど、波乱の半生を送りました。2019年に橋の上から転落し、77歳で死去しています。

丸西実夫/夢村四郎

知的障害のあるトメの弟・実夫(さねお)を演じたのは夢村四郎です。終盤、にわとりを手に通天閣に登るシーンに注目です。

他の出演作としては、同じ田中登監督の『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』や鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』があります。

百合/絵沢萠子

小料理屋を営みながら、店の二階など客をとらせている女将の百合を絵沢萠子が演じています。

絵沢萠子は、日活ロマンポルノにとどまらず、数々のドラマや映画で独特の存在感をみせる実力派女優として活躍。1993年の映画『月はどっちに出ている』では、高崎映画祭最優秀助演女優賞に輝きました。

文江/宮下順子

トメの暮らすアパートの隣人が、宮下順子扮する文江です。恋人に貢ぐ純な女から、やがて性愛の虜へと堕ちていきます。

演じた宮下順子は、言うまでもなく日活ロマンポルノの女王的存在。そればかりか多数のテレビドラマや映画でも活躍する名女優です。

浅見/高橋明

大人の玩具店を経営し、百合と組んで女を手なずける好色な中年男が浅見です。それゆえ無残な最期をむかえます。

演じた高橋明は、野性味あふれる男の魅力で、日活ロマンポルノを代表する男優でしたが、2011年に他界しています。

『(秘)色情めす市場』の解説・感想レビュー

日活ロマンポルノの作品を立て続けに鑑賞したのだが、紛れもない傑作だったのが『(秘)色情めす市場』である。

西日本を代表するドヤ街、大阪釜ヶ崎に生きる、19歳のトメが主人公。貧しい長屋暮らしで、母のよねともども、娼婦として生計を立てている。

冒頭、トメがカメラに向かってこう呟く。

「うちな、なんや逆らいたいんや」

男に肉体を弄ばれながらも、決して従属もせず媚もせず、毅然さと自尊を失わずに生きる姿はひたすら逞しく、そして美しい。それは、男に依存し、そのためには我が子すら犠牲にする母の生き方に対する反抗でもある。

トメは、思春期を迎えつつある知的障害者の弟・実夫を、自らの肉体で慰めてやる。他では絶対見せないその表情には、母性とも菩薩とも見て取れる崇高さが漂っている。

トメを演じたというよりトメ本人としか思えない、芹明香の存在感は圧巻。芹明香が放つけだるさは、桃井かおりをさらにざらつかせて武骨にした印象だ。

母を演じたのが、花柳幻舟。だらしなく堕ちた口汚い女になりきって、抜群のうまさがあった。

通天閣を舞台に、村田英雄の「王将」が流れる終盤の一部シーンを除いて、全編陰影の強いモノクロであることからして、いわゆるポルノ映画とは一線を画している。

ゲリラ的に撮影されたという当時の釜ヶ崎など70年代初頭の大阪の光景は、実に生々しいリアリティがあり、必見だ。そればかりか、どのシーンを切り取っても、恐ろしいほどに美しい。

控えめなジャズ風の音楽も秀逸で、田中登監督の強い作家性と映画愛の賜物だろう。

本作でもうひとり、陰の主役とも言えるのが、宮下順子演じる文江である。

甲斐性のない恋人のため、やがて身を売るようになり、周囲に流されるまま悲惨な末路を迎える哀れな女。

そんな文江の生き方が描かれるからこそ、終盤、いよいよ覚悟を決めたトメの強さが際立ってくるのである。

田中登監督は、元々本作に『受胎告知』と名づけたかったらしい。

それが示すとおり、伝わってくるのは、性の持つ逃れがたい悲哀であり、泥沼に咲く人間の放つ尊厳である。

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