『ぼくのエリ 200歳の少女』あらすじとネタバレ考察レビュー

ぼくのエリ 200歳の少女 映画

2008年に公開された、スウェーデン発、異色ヴァンパイア映画の傑作『ぼくのエリ 200歳の少女』。

世界的ベストセラーとなった原作、賛否を呼んだ映画名や原題の意味、トーマス・アルフレッドソン監督の紹介に続き、個人的考察を交えてレビューしたいと思います。

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『ぼくのエリ 200歳の少女』とは?

『ぼくのエリ 200歳の少女』は、2008年に公開された(日本公開は2010年)、スウェーデン映画です。

永遠に歳を取らない吸血鬼の少女エリと内気な人間の少年オスカーの、奇妙ながらあまりにもピュアな関係を、雪に閉ざされたストックホルム郊外ブラッケベリの街を舞台に描きます。

トーマス・アルフレッドソン監督の名を一躍世界に知らしめた一方、日本では、独自の映画名や、物語の決定的なシーンに「ぼかし」が入ってよくわからないという前代未聞の状況に陥るなど、さまざまな議論を巻き起こしました。

原作と映画の原題『Let the Right One In』について

原作は、スウェーデン人作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが2004年に発表したヴァンパイア小説『MORSE-モールス―』。舞台となるブラッケベリはリンドクヴィストの故郷であり、本映画化にあたっては脚本も手掛けています。

賛否両論よんだ邦題『ぼくのエリ 200歳の少女』に対し、原作小説も映画も、原題は『Let the Right One In』。これは、原作者がモリッシーの大ファンであり、彼の曲「Let the Right One Slip In」からとったものです。

直訳すると、「正しいものを受け入れよ」となりますが、「吸血鬼は誰かの家に入るとき、招待されない限り、中に入ってはいけない」というヴァンパイア伝説が込められています。実際に劇中、エリがオスカーに許可を求めるシーンが数度ありました。

同時に、オスカーがヴァンパイアであるエリを、エリが人間であるオスカーを受け入れ、一緒に生きていくという本作のテーマも重ねられています。

ちなみに、小説につけられた邦題『モールス』とは、エリとオスカーが壁越しにモールス信号を使って連絡を取り合うことからとられた言葉です。



監督を務めたトーマス・アルフレッドソンについて

トーマス・アルフレッドソンは、1965年4月1日、ストックホルム県リディンゴー生まれ。父のハンズ・アルフレッドソンは、スウェーデンでは有名な俳優兼映画監督、兄のダニエルも『ミレニアム』シリーズで国際的に知られる映画監督です。

テレビ業界でキャリアを積んだのち、1995年に『Bert: The Last Virgin』で映画監督デビュー。いきなりスウェーデンの権威あるゴールデン・ビートル賞監督賞にノミネートされました。

監督4作目にあたる本作で、国内外様々な賞に輝き、一躍世界にその名が知られるようになります。

続く2011年公開の英仏独合作映画『裏切りのサーカス』も、スパイ映画の傑作との誉れ高く、名声を不動のものとしました。

寡作で知られ、その後の作品は2017年公開の『スノーマン 雪闇の殺人鬼』、2020年公開の『ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル 』の2作のみです。

あらすじと考察レビュー【ネタバレ】

『裏切りのサーカス』があまりに素晴らしかったトーマス・アルフレッドソン監督の、前作にあたる作品が『ぼくのエリ 200歳の少女』。

こんなにセンチメンタルで、ピュアで、切ないヴァンパイア映画がかつてあっただろうか。

ストックホルム郊外に母と暮らす12歳の少年オスカーは、内向的な性格ゆえ、学校ではいじめの標的。
ある夜、アパートの隣の部屋に、父と娘らしき二人が引っ越してくる。

少女の名はエリ。
ミステリアスな少女にオスカーは魅かれ、やがて二人は幼い恋人同士になるのだが、実は、エリはヴァンパイアだった……。

物語自体はいたってシンプルなのだが、ここでも『裏切りのサーカス』同様、饒舌に語られないもう一つのテーマが、あちらこちらに顔を出す。

ホモセクシャルである。

まず、オスカーの父。
どうやら母と離婚した理由は父のホモセクシャルにあったのではないか、と暗示させるシーンがある。

そして、エリ自身。
「私は少女じゃない」と何度もエリは言う。
日本公開版ではそれを示す決定的なシーンにぼかしが入っているためにかなり解り辛くなっているのだが、エリは実は去勢された少年なのだ。

どういう経緯でそうなったのかは語られない。が、「私は少女じゃない」という言葉から、トランスジェンダー的なにおいを強く感じさせる。

また、そう考えると、殺人鬼となって、エリのために生き血を集める父らしき男も、エリに魅入られた、性的少数者だと見ることもできる。
男は、自らの命をかけてエリに奉仕し、守り抜こうとする。
その姿はどこか恍惚としており、壮絶な最期は甘美な情死にすら思えてくる。

屋内プールでオスカーをいじめる少年たちに、ついにエリが復讐を遂げる、美し過ぎるシーン。
無音の水中を漂う血や肉片……。
ある種の残酷さは、突き詰めた美と紙一重であることを、監督はここで見事に証明してみせた。

オスカーは、エリと生きていく道を選ぶ。
永遠に歳をとらないエリに対し、オスカーだけが普通に老いていくのだということは、自らの命を犠牲に無償の愛を捧げた男と、もしかして同じ道を歩もうとしているのかもしれない、とも思える。

ひとつの究極の愛に他ならない。

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『ぼくのエリ 200歳の少女』のハリウッド版リメイク『モールス』

2010年には、マット・リーヴスが監督を手掛け、クロエ・グレース・モレッツとコディ・スミット=マクフィーが主演した、ハリウッドリメイク『モールス』が公開されました。

こちらも原題は『Let Me In』。オリジナルに忠実に作られており、リメイク映画にありがちな駄作に陥ることなく比較的高い評価を得ています。

個人的には、スウェーデン版の方に軍配を挙げますが、できれば両作品をあわせて鑑賞してみることをおすすめします。

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