不朽の名作『飢餓海峡』のあらすじ・キャストなど徹底解説【ネタバレ】

飢餓海峡 映画

昭和につくられた日本映画の名作は?というと、『羅生門』『東京物語』『雨月物語』、もう少し新しいところなら『砂の器』など挙げる人も多いでしょう。が、ここでご紹介する『飢餓海峡』も、それら作品に勝るとも劣らない不朽の名作です。

すぐれた原作によるドラマチックな物語、名匠が魂を注ぎ込んだ渾身の作、俳優たちの迫真の演技など、どれをとってもケチのつけようはありません。

ここでは、そんな1965年(昭和40年)公開の映画『飢餓海峡』について、あらすじやキャストはもちろん、原作や裏話のエピソードにいたるまで徹底して深く解説したいと思います。

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映画『飢餓海峡』のあらすじ(ネタバレあり)

昭和22年、台風直撃によって青函連絡船沈没事故が起きた同じ日、北海道岩内では三人組の強盗が質屋一家を惨殺したうえ、放火して逃走するという事件が発生します。

収容された転覆事故の遺体の中に乗船記録のない身元不明の二体があり、調べによって強盗三人組のうちの二人であることが判明します。また、事件当夜、犬飼多吉と名乗る不可解な男が姿を消したことも……。

犬飼の足どりを追い、青森下北半島に出向いた函館警察の弓坂刑事は、一人の芸者・杉戸八重が犬飼と一夜を共にしていた事実を突き止めますが、八重はなぜか頑なに口をつぐみ、結局、真相はわからぬまま、事件は闇に葬られます。

それから10年……。

東京に出ていた八重が舞鶴で遺体となって発見されたこと、そして樽見京一郎なる男が載った新聞記事の切り抜きを八重が大切に持っていたことをきっかけに、再び時計が動き出し、過去の真相と秘められた愛憎劇が明らかになっていくのでした。

以下、ネタバレ。

実業家として成功した樽見京一郎の新聞記事を見て、犬飼だと確信した八重……。八重はただお礼が言いたかっただけにも関わらず、過去を封印したい犬飼は、八重を殺害してしまったのでした。

事情聴取でも犬飼は知らぬふりを通しますが、八重が大切に保管していた犬飼の爪が見つかったこと、さらに筆跡鑑定により、ついに真相を白状します。

弓坂らによって、北海道に移送される船の上で、犬飼は自ら海峡に身を投げるのでした。

原作は水上勉による同名小説

1962年に週刊誌上で発表された水上勉(みずかみつとむ)の連載推理小説が原作です。前年に『雁の寺』で第45回直木賞を受賞した直後の作品であり、まさに水上が脂の乗り切った頃の代表作の一つです。

水上作品のテーマとして、戦後の混とんと困窮の中でひたむきに生きる日本人の悲哀を描くことが多く、本作もその流れにあります。

そうしたことから、社会派推理作家の雄として、松本清張と並び称されることもしばしば。

松本清張同様、多くの作品が映画化・ドラマ化されているのも特徴で、若尾文子主演の『雁の寺』、佐久間良子主演の『五番町夕霧楼』、岩下志麻主演の『はなれ瞽女おりん』など、女優がこぞって出演したがる作品の原作者としても知られています。

再評価される内田吐夢監督の文字通り代表作

監督デビューした1922年から、戦後にかけて作品を送り出した内田吐夢。しかしその間、映画会社と衝突して移籍したり、戦時中は満州に渡って満州映画協会に在籍し、1954年まで共産化する中国に残留したりするなど、映画監督としてのキャリアは波乱に富んでいました。

1955年に東映で監督業に復帰してからは、『大菩薩峠』『宮本武蔵』など時代劇大作を多く手掛けます。一方で、社会的弱者の生きざまを鋭く描いた作品も手掛け、『飢餓海峡』はその後者にあたります。

後述するとおり、本作の編集をめぐって東映と対立し、再び退社。そんな紆余曲折もあって、1970年に満72歳で死去するまで、当時の映画監督と比べて決して作品数は多い方ではありません。

しかし、2005年には、ロッテルダム映画祭で内田吐夢の大々的な特集が催されるなど、近年、その評価はますます高まっています。

映画『飢餓海峡』の主要キャスト4人

1.犬飼多吉(樽見京一郎)/三國連太郎

強盗殺人事件の起こった現場から忽然と姿を消してから10年後、別の名前を持つ地元の名士として姿を現す謎の男を三國連太郎が演じました。

1951年のデビュー以後、2013年に90歳で亡くなるまで、名実ともに実力と個性を合わせた持った名優として、たくさんの映画・ドラマに出演し続けました。4度結婚し、3度目の結婚で生まれたのが、俳優の佐藤浩市です。

本作にあたっては、三國のキャスティングに難色を示した東映側に対し、三國以外なら撮らないと強硬に主張したのが内田吐夢監督でした。撮影中、二人は何度も衝突し、三國の病気による中断などもありましたが、結果、期待を裏切らない迫真の名演技をみせ、毎日映画コンクールなどで主演男優賞に輝いています。

2.杉戸八重/左幸子

一人の男をひたむきに思い続けたことで悲劇を迎える芸者の杉戸八重を演じたのは左幸子です。

デビューは1952年。『幕末太陽傳』や『暖流』などに続き、1963年に主演した『にっぽん昆虫記』で、日本人初となるベルリン国際映画祭女優賞に輝き、トップ女優の地位を不動のものとしました。

妹の一人は女優の左時枝、元夫は映画監督の羽仁進、娘はエッセイストの羽仁未央です。夫ともう一人の実の妹の浮気、自殺未遂など、私生活は波乱に満ちており、2001年に71歳の孤独な死を迎えています。

3.弓坂刑事/伴淳三郎

犬飼多吉を真犯人だと考え、執念深く追い続ける函館署のベテラン刑事・弓坂を伴淳三郎が演じています。

1927年、日活の大部屋俳優として役者人生をスタートさせたのち、昭和を代表する喜劇俳優として活躍した伴淳三郎。「伝七捕物帳」シリーズや「駅前」シリーズなど多数の人気映画シリーズのほか、『時間ですよ』や『寺内貫太郎一家』など大ヒットドラマでも、忘れがたい存在感をみせる名優でした。

1981年、73歳で他界しています。

4.味村刑事/高倉健

杉戸八重の死の真相を捜査する東舞鶴署の刑事・味村を高倉健が演じています。

本作に出演した1965年は、デビュー10年を迎えていた高倉健にとって、大きな飛躍となった年でした。本作のほか、『網走番外地』や『日本侠客伝』などの作品に立て続けに主演し、この後人気シリーズ化する任侠映画路線のスタートをきったのもこの年です。

言うまでもなく日本を代表する俳優として世界を股にかけて活躍したのち、2014年に83歳で他界しました。



『飢餓海峡』にまつわる5つのトリビア・裏話

1.3度テレビドラマ化、3度舞台化された『飢餓海峡』

水上勉の『飢餓海峡』は、この映画化作品ののち、テレビドラマ版が3度放送され、また舞台版が3度上演されています。

各作品の年度とキャスト(犬飼・杉戸・弓坂の順)は以下のとおりです。

テレビドラマ
・1968年(NHK):高橋幸治・中村玉緒・宇野重吉
・1978年(フジ):山崎努・藤真利子・若山富三郎
・1988年(フジ):萩原健一・若村麻由美・仲代達矢

舞台
・1972年(文学座):高橋悦史・太地喜和子・金内喜久夫
・1990年(地人会):永島敏行・石田えり・金内喜久夫
・2006年(地人会):永島敏行・島田歌穂・金内喜久夫

2.オリジナル完成版、東映編集版、監督編集の完全版、3つのバージョンが存在

当初、完成版が192分1秒と長かったため、東映側が無断で167分に短縮したものを製作します。そのために内田と対立し、「カット事件」として世間をにぎわせることになりました。

話し合いにより、内田が新たに編集した183分の完全版と東映の167分版の両方を、劇場をわけて上映することで決着します。

ところが、実際に183分版が上映された映画館はわずか4館に過ぎず、怒った内田は東映を去ることになりました。

ちなみに192分のオリジナル完成版は見つかっていません。

3.実際にあった事故から着想を得た物語

青函連絡船沈没、強盗放火とも、実際にあった出来事から水上勉が着想を得たものです。

1954年(昭和29年)9月26日、日本を縦断した台風15号のため、青函連絡船洞爺丸が沈没するという大事故が発生しました。日本海難史上最大となる1155人の死者・行方不明者を出し、「洞爺丸事故」と呼ばれています。

同じ日、北海道岩内郡岩内町で火事が発生し、結果、街の約8割が焼失するという大火災に至りました。台風15号から避難したアパートの住人の火の消し忘れが原因で、「岩内大火」と呼ばれています。

4.石川さゆりのヒット曲『飢餓海峡』との関係は?

1994年に発売された、石川さゆりが歌った同名タイトルのヒット曲は、映画の内容に着想を得て歌詞を作ったものです。

愛した男の足の爪を大事にする女性の心情を綴ったものであり、また「恐山」という言葉も出てくることから、杉戸八重をイメージしていることは確かです。

作詞は『天城越え』なども手掛けている吉岡治です。

5.作品の根底に隠された被差別問題

映画でははっきりと描かれてはいませんが、犬飼多吉の出自が被差別部落にあり、そのための極貧や差別が事件の背景にあった、とみる向きもあります。

オリジナル完成版からカットされたのは犬飼の貧しい幼少時代を描いた部分だという噂もありますが、真偽のほどははっきりしていません。

三國連太郎は、養父が被差別部落の出身であることを公表していましたから、内田が三國のキャスティングに拘ったのも、そのあたりを知ってのこと、だった可能性があります。

幅広い世代の人に観て欲しい映画『飢餓海峡』

石川さゆりのヒット曲もあって、『飢餓海峡』の名前そのものは世代を問わず、広く知られていますが、肝心の映画を観た人はそれほど多くはないかもしれません。

内田吐夢監督が再評価された今、あらためて代表作『飢餓海峡』をじっくり鑑賞してみてはいかがでしょうか。

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