1962年公開の第1作から、2021年公開の第25作まで、これまで60年近くに渡って世界中で愛されてきた、イギリス映画「007シリーズ」。
イアン・フレミングの小説を原作とした物語そのもの面白さ、複数の俳優によって受け継がれてきた主人公ジェームズ・ボンドの魅力はもちろん、その時々のホットなアーティストによって歌われてきた主題歌も、シリーズの大きな楽しみとなっていることは言うまでもありません。
そこで本記事では、シリーズの音楽・主題歌にしぼり、製作裏話やトリビア、落選曲など含め、詳しくご紹介したいと思います。
- 『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』まで25作を数える007シリーズ
- 主題歌・テーマ曲一覧
- 007シリーズの音楽監督の変遷
- テーマ曲・各主題歌の紹介と裏話、落選曲
- ①『007/ドクター・ノオ』:ジェームズ・ボンドのテーマ/モンティ・ノーマン
- ②『007/ロシアより愛をこめて』:同タイトル曲/マット・モンロー
- ③『007/ゴールドフィンガー』:同タイトル曲/シャーリー・バッシー
- ④『007/サンダーボール作戦』:同タイトル曲/トム・ジョーンズ
- ⑤『007は二度死ぬ』:同タイトル曲/ナンシー・シナトラ
- ⑥『女王陛下の007』:愛はすべてを超えて/ルイ・アームストロング
- ⑦『007/ダイヤモンドは永遠に』:同タイトル曲/シャーリー・バッシー
- ⑧『007/死ぬのは奴らだ』:同タイトル曲/ポール・マッカートニー&ウイングス
- ⑨『007/黄金銃を持つ男』:同タイトル曲/ルル
- ⑩『007/私を愛したスパイ』:ノーバディ・ダズ・イット・ベター/カーリー・サイモン
- ⑪『007/ムーンレイカー』:同タイトル曲/シャーリー・バッシー
- ⑫『007/ユア・アイズ・オンリー』:同タイトル曲/シーナ・イーストン
- ⑬『007/オクトパシー』:オール・タイム・ハイ/リタ・クーリッジ
- ⑭『007/美しき獲物たち』:同タイトル曲/デュラン・デュラン
- ⑮『007/リビング・デイライツ』:同タイトル曲/a-ha
- ⑯『007/消されたライセンス』:同タイトル曲/グラディス・ナイト
- ⑰『ゴールデンアイ』:同タイトル曲/ティナ・ターナー
- ⑱『トゥモロー・ネバー・ダイ』:同タイトル曲/シェリル・クロウ
- ⑲『ワールド・イズ・ノット・イナフ』:同タイトル曲/ガービッジ
- ⑳『007/ダイ・アナザー・デイ』:同タイトル曲/マドンナ
- ㉑『007/カジノ・ロワイヤル』:ユー・ノー・マイ・ネーム/クリス・コーネル
- ㉒『007/慰めの報酬』:アナザー・ウェイ・トゥ・ダイ/ジャック・ホワイト&アリシア・キーズ
- ㉓『007 スカイフォール』:同タイトル曲/アデル
- ㉔『007 スペクター』:ライティングズ・オン・ザ・ウォール/サム・スミス
- ㉕『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』:同タイトル曲/ビリー・アイリッシュ
- 主題歌ベスト5・ワースト5<ランキング>
- 007シリーズ第26作目は?公開はいつ?
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』まで25作を数える007シリーズ
1962年の第1作『007/ドクター・ノオ(公開時邦題:007は殺しの番号)』から、2023年現在、最も新しい作品となっている2021年公開の第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』までおよそ60年に渡り、全25作品が公開された007シリーズ。
シリーズのために設立された「イーオン・プロダクションズ」によるこの25作以外にも、1967年と1983年には番外編とも呼べる2作品が別の独立プロダクションにより製作されました。
上述のとおり、第2作から始まったその時代の人気シンガーが歌う主題歌も大きな魅力です。
2022年には、シリーズの音楽に焦点を絞ったドキュメンタリー映画『サウンド・オブ・007』が、Amazonプライムビデオより配信!
中で、あらゆるミュージシャンにとって、007の主題歌を任されるのは、役者が大作の主役を獲得するのに匹敵する最高の栄誉だと述べられています。
主題歌・テーマ曲一覧
公開年 | 作品名 | 曲名 | アーティスト |
---|---|---|---|
1(1962) | 007/ドクター・ノオ | ジェームズ・ボンドのテーマ | モンティ・ノーマン |
2(1963) | 007/ロシアより愛をこめて | ロシアより愛をこめて | マット・モンロー |
3(1964) | 007/ゴールドフィンガー | ゴールドフィンガー | シャーリー・バッシー |
4(1965) | 007/サンダーボール作戦 | サンダーボール | トム・ジョーンズ |
5(1967) | 007は二度死ぬ | 007は二度死ぬ | ナンシー・シナトラ |
6(1969) | 女王陛下の007 | 愛はすべてを超えて | ルイ・アームストロング |
7(1971) | 007/ダイヤモンドは永遠に | ダイヤモンドは永遠に | シャーリー・バッシー |
8(1973) | 007/死ぬのは奴らだ | 死ぬのは奴らだ | ポール・マッカートニー&ウイングス |
9(1974) | 007/黄金銃を持つ男 | 黄金銃を持つ男 | ルル |
10(1977) | 007/私を愛したスパイ | ノーバディ・ダズ・イット・ベター | カーリー・サイモン |
11(1979) | 007/ムーンレイカー | ムーンレイカー | シャーリー・バッシー |
12(1981) | 007/ユア・アイズ・オンリー | ユア・アイズ・オンリー | シーナ・イーストン |
13(1983) | 007/オクトパシー | オール・タイム・ハイ | リタ・クーリッジ |
14(1985) | 007/美しき獲物たち | 美しき獲物たち | デュラン・デュラン |
15(1987) | 007/リビング・デイライツ | リビング・デイライツ | a-ha |
16(1989) | 007/消されたライセンス | 消されたライセンス | グラディス・ナイト |
17(1995) | ゴールデンアイ | ゴールデンアイ | ティナ・ターナー |
18(1997) | トゥモロー・ネバー・ダイ | トゥモロー・ネバー・ダイ | シェリル・クロウ |
19(1999) | ワールド・イズ・ノット・イナフ | ワールド・イズ・ノット・イナフ | ガービッジ |
20(2002) | 007/ダイ・アナザー・デイ | ダイ・アナザー・デイ | マドンナ |
21(2006) | 007/カジノ・ロワイヤル | ユー・ノー・マイ・ネーム | クリス・コーネル |
22(2008) | 007/慰めの報酬 | アナザー・ウェイ・トゥ・ダイ | ジャック・ホワイト&アリシア・キーズ |
23(2012) | 007 スカイフォール | スカイフォール | アデル |
24(2015) | 007 スペクター | ライティングズ・オン・ザ・ウォール | サム・スミス |
25(2021) | 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ | ノー・タイム・トゥ・ダイ | ビリー・アイリッシュ |
独立プロダクション製作のボンド映画2作
1967 | 007/カジノ・ロワイヤル | 恋の面影 | ダスティ・スプリングフィールド |
1983 | ネバーセイ・ネバーアゲイン | ネバーセイ・ネバーアゲイン | ラニ・ホール |
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007シリーズの音楽監督の変遷
シリーズの前半において、大きな役割を担ったのは、ジョン・バリー。007シリーズの音楽的なスタイルを確立した立役者だと言っても過言ではありません。
その後、ジェームズ・ボンド役の俳優と同じく、複数の著名な作曲家によって音楽監督も受け継がれ、それぞれの個性、そして時代に合わせたアレンジが行われています。
モンティ・ノーマン | 第1作 |
ジョン・バリー | 第2–7作、第9作、第11作、第13–15作の計11作品 |
ジョージ・マーティン | 第8作 |
マーヴィン・ハムリッシュ | 第10作 |
ビル・コンティ | 第12作 |
マイケル・ケイメン | 第16作 |
エリック・セラ | 第17作 |
デヴィッド・アーノルド | 第18–22作の計5作品 |
トーマス・ニューマン | 第23-24作の計2作品 |
ハンス・ジマー | 第25作 |
テーマ曲・各主題歌の紹介と裏話、落選曲
①『007/ドクター・ノオ』:ジェームズ・ボンドのテーマ/モンティ・ノーマン
1950年代から60年代にかけて、ロンドンのウエストエンドで上演されるミュージカル・ナンバーを複数手がけていたモンティ・ノーマンが作曲した「ジェームズ・ボンドのテーマ」が、以降、シリーズのメインテーマ曲として使用されました。
これにより、ノーマンは2022年11月11日に亡くなるまで、同テーマの唯一の作曲者として莫大な著作権収入を受け取り続けますが、実際、プロデューサーから頼まれ、ただのシンプルなメロディラインでしかなかったノーマンの曲をスリリングなテーマ曲にアレンジしたのは、この作品からすでに関わっていたジョン・バリーでした。それを指摘したメディアと一時、裁判沙汰になったこともあります。
裁判は、ノーマンの勝訴に終わりましたが、先のドキュメンタリーの中でも、映画音楽に不慣れでお手上げ状態だったノーマンに対し、大胆なアレンジをくわえテーマ曲として完成させたのはジョン・バリーだった、とはっきり語られています。
②『007/ロシアより愛をこめて』:同タイトル曲/マット・モンロー
「黄金の声を持つ男」の異名を持っていたバラード・シンガーのマット・モンローが、シリーズ初となる主題歌を歌いました。モンローは、本作のほか、1966年公開の映画『野生のエルザ』の主題歌「ボーン・フリー」の歌唱でも有名です。
ちなみに「ロシアより愛をこめて」の作曲はライオネル・バートですが、米アカデミー賞歌曲賞に輝いた「ボーン・フリー」の作曲はジョン・バリーです。
③『007/ゴールドフィンガー』:同タイトル曲/シャーリー・バッシー
本作以後、合計3作品の主題歌を歌うことになるシャーリー・バッシーは、大英帝国勲章デイムの称号を持つ、英国の国民的シンガーです。2023年7月現在、86歳。
バッシーは映画のオープニング・クレジットの映像を見ながら、レコーディングを行いました。最後の強い高音を発するため、胸を締め付けていた下着を外し、ようやく歌い上げることができたと言います。
④『007/サンダーボール作戦』:同タイトル曲/トム・ジョーンズ
当初、「Mr. Kiss Kiss Bang Bang」という主題歌が用意され、前作に続いてシャーリー・バッシーが録音しましたが、プロデューサーがその女性的過ぎる歌詞に異論を唱え、急遽トム・ジョーンズが歌う同曲に変更になりました。
「ゴールドフィンガー」と同じく、9秒続く高音のラストのため、ジョーンズはほとんど失神寸前だったことを、後に告白しています。
同じく、ジョニー・キャッシュが歌う別曲「サンダーボール」も候補となりましたが落選。ちなみに、シャーリー・バッシーが歌った幻の主題歌「Mr. Kiss Kiss Bang Bang」は、「ジェームズ・ボンド 30周年記念アルバム」に収録されています。
⑤『007は二度死ぬ』:同タイトル曲/ナンシー・シナトラ
初のイギリス人ではない歌手が抜擢され、フランク・シナトラの長女ナンシー・シナトラがアメリカから呼び寄せられました。
しかし、緊張もあってレコーディングはまったくうまくいかず、25回ものテイクを録音し、それらをつなぎ合わせる形でようやく完成にこぎつけた話は有名です。
⑥『女王陛下の007』:愛はすべてを超えて/ルイ・アームストロング
歌詞に映画タイトルの「On Her Majesty’s Secret Service」が入らないという理由で、ジョン・バリーによる別のインストルメンタル曲がメイン・クレジットで流れ、ルイ・アームストロングが歌った「愛はすべてを超えて(We Have All the Time in the World)」は挿入歌の扱いとなりました。
1971年に死去したアームストロングが最後に録音した曲としても知られています。
⑦『007/ダイヤモンドは永遠に』:同タイトル曲/シャーリー・バッシー
第3作目の「ゴールドフィンガー」に続き、シャーリー・バッシーが主題歌を歌いました。007シリーズで、複数回主題歌を歌ったのは、バッシーのみです。
上記ドキュメンタリー映画の中で、ジョン・バリーが歌詞をドン・ブラックに依頼した際、ダイアモンドを男性の性器の隠喩だと考え、セクシーな歌詞を作って欲しいと述べた裏話を披露しています。
⑧『007/死ぬのは奴らだ』:同タイトル曲/ポール・マッカートニー&ウイングス
ポール・マッカートニー&ウイングスが手掛けた主題歌は、007シリーズ初のロック・ナンバーであると同時に、英米両方のチャートで一桁に乗る大ヒット作となりました。
プロデューサー側は、作詞作曲のみマッカートニーに依頼したつもりで、マッカートニー自ら録音をしたことは想定外だったようです。マッカートニーのギャラが高額だっため、音楽にかける予算を削減するため、ビートルズ時代のプロデューサーだったジョージ・マーティンを音楽監督に抜擢しました。
曲を用意してアーティストに歌ってもらうのではなく、曲作りからすべてを任せた最初の主題歌です。
⑨『007/黄金銃を持つ男』:同タイトル曲/ルル
当初は、エルトン・ジョンとキャット・スティーブンスの名が挙がっていましたが、製作側の事情により実現せず、デビュー曲の「シャウト」、出演及び主題歌を歌った映画『いつも心に太陽を』などで人気スターの地位を築いていたイギリス人歌手ルルが選ばれました。
英国ではヒットしたものの、露骨に性的な歌詞には賛否両論あり、前作ほどの国際的なヒットにはつながりませんでした。また、他の候補としてアリス・クーパーの曲もありましたが落選。その曲は、クーパーのアルバム「Muscle of Love」に収録されています。
⑩『007/私を愛したスパイ』:ノーバディ・ダズ・イット・ベター/カーリー・サイモン
『コーラスライン』や『追憶』で知られるアメリカ人作曲家のマーヴィン・ハムリッシュが音楽監督に選ばれ、キャロル・ベイヤー・セイガーとの名コンビ、さらにシンガーにカーリー・サイモンを抜擢した主題歌が『ノーバディ・ダズ・イット・ベター』です。「死ぬのは奴らだ」と並ぶ大ヒット曲になりました。
映画タイトルとは違うという理由から挿入歌扱いとなったルイ・アームストロングの時とは違い、シリーズ初のタイトル名とは異なる主題歌名です。ハムリッシュからボンドを一言で表すと?と訊かれたセイガーが答えた言葉「ノーバディ・ダズ・イット・ベター(誰もかなわない)」がそのままタイトルになりました。
その後も、映画『Mr.&Mrs. スミス』、『ロスト・イン・トランスレーション』『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』など数々の映画で使用されるなど、007シリーズを代表する名曲として知られています。
⑪『007/ムーンレイカー』:同タイトル曲/シャーリー・バッシー
シャーリー・バッシーが3度目の抜擢となりましたが、その裏にはさまざまな事情がありました。
もともと、フランク・シナトラが第一候補でしたが実現せず、オファーされたケイト・ブッシュも辞退。ジョニー・マティスが候補となりましたがなかなか進展せず、公開数週間前になって、仕方なくシャーリー・バッシーに頼み込むという事態に至ったのです。
そのため、バッシーは自身の曲とは考えておらず、プロモーションにも協力せず、ヒットチャートにあがることもありませんでした。バッシーは、この歌を嫌ってそれ以後もステージで歌うことはなく、歌ったのは、2005年の公演で、3曲のメロディの中に入れたたった一度だけです。
⑫『007/ユア・アイズ・オンリー』:同タイトル曲/シーナ・イーストン
シーナ・イーストンは、ビル・コンティが手掛けた主題歌を歌ったばかりか、その美貌から、シリーズ初となる自身がオープニング・クレジットにも登場しました。
同じく、ブロンディが候補でしたが、コンティの曲ではなく自身のオリジナル曲を希望したため落選。その曲は、ブロンディのアルバム「The Hunter」に収録されています。
⑬『007/オクトパシー』:オール・タイム・ハイ/リタ・クーリッジ
映画タイトルと異なるばかりか、歌詞の中にもタイトル名の登場しない初の主題歌です。ジョン・バリー久々の復帰作であり、リタ・クーリッジが歌唱を担当しましたが、大きなヒットにはつながりませんでした。
タイトルが「オクトパシー(タコ)」であるという不運もあって、上記ドキュメンタリーの中でも失敗曲の代表として扱われています。ただ、アメリカのAORチャートでは1位に輝いたり、その後、数々のカバーもされていたりすることから、007にはふさわしくなかったとしても、曲そのものは決して駄作とは考えられていません。
⑭『007/美しき獲物たち』:同タイトル曲/デュラン・デュラン
ジョン・バリーとデュラン・デュランがコラボレーションする形で生まれた主題歌であり、英国で2位、米ビルボードでは初の1位と、シリーズ最大のヒット曲となりました。
当時人気絶頂期にあったデュラン・デュランが起用されたのは、メンバーのジョン・テイラーが007シリーズのかねてからの大ファンであり、パーティーで出会ったプロデューサーに直談判したことがきっかけでした。
ただ、ジョン・バリーはロック・バンドらしい自由気ままなレコーディングにかなり苦労したようです。
⑮『007/リビング・デイライツ』:同タイトル曲/a-ha
前作に続き、ジョン・バリーとノルウェーのa-haがコラボする形で主題歌が製作されましたが、両者の意見が対立し、結果、それぞれの編集した異なる2つのバージョンが存在するという事態に至りました。この苦労から、以後、ジョン・バリーは007シリーズから退くことを決意したと言います。
また、同曲はオープニング・クレジットのみで使用され、エンド・クレジットでは、プリテンダーズの手掛けた「If There Was A Man」が使用されたのも異例です。もともとは、プリテンダーズがオープニング曲も担当する予定でしたが、前作のデュラン・デュランの成功をうけ、当時世界的な人気のあったa-haに白羽の矢が立ったのです。
それに、当初はペット・ショップ・ボーイズが歌う「This Must Be the Place I Waited Years to Leave」を起用する案もありました。ところが、歌詞が宗教的過ぎるという理由で不採用に至ったという説と、ペット・ショップ・ボーイズに映画の全音楽の担当を依頼したものの、主題歌のみしか提供されなかったため不採用に至ったという説があります。同曲は、ペット・ショップ・ボーイズの1990年のアルバム「Behaviour」に収録されています。
⑯『007/消されたライセンス』:同タイトル曲/グラディス・ナイト
当初、エリック・クラプトンが主題歌を手掛ける予定でしたが実現に至らず、久しぶりにベテランのグラディス・ナイトが抜擢されました。曲は「ゴールドフィンガー」の一部をサンプリングしており、そのため使用料が同曲の作家チームにも支払われています。
エンド・クレジットには別のアーティストの曲を使用するという前作にならい、パティ・ラベルの「If You Asked Me To」が起用されました。
⑰『ゴールデンアイ』:同タイトル曲/ティナ・ターナー
主題歌はU2のボノとジ・エッジが書き、ティナ・ターナーが歌唱を担当するという、ビッグネームの共作となりましたが、大きなヒットにはつながりませんでした。劇中の他の楽曲とは完全に独立した形で製作されたというのも異例です。上記ドキュメンタリー映画の中で、ティナ・ターナーは、ボノから届いたデモテープがメロディさえ判別できないラフなものでかなり困ったと告白しています。
スウェーデンのポップグループであるエイス・オブ・ベイスが主題歌を担当する案もありましたが、エイス・オブ・ベイスのレコード会社側が映画の失敗を予想して辞退。すでに完成していた曲は、「The Juvenil」のタイトルでシングル・リリースされ、アルバム「Da Capo」にも収録されています。
エンド・クレジットには、映画の音楽を担当したエリック・セラ自ら歌った「エクスペリエンス・オブ・ラヴ」が使用されました。
⑱『トゥモロー・ネバー・ダイ』:同タイトル曲/シェリル・クロウ
ジョン・バリーの復帰が打診されるものの、ギャラの面で折り合わず、バリーの推薦でデヴィッド・アーノルドが起用されました。当初は、アーノルドが手掛け、デヴィッド・マッカルモントが歌う主題歌が予定されましたが、MGM側がもっとビッグネームを希望。
コンペに応じたシェリル・クロウ、ソフト・セルのマーク・アーモンド、パルプが最終候補に残りました。結局、シェリル・クロウの曲が主題歌に選ばれてオープニング・クレジットに使用され、マーク・アーモンドの曲「Surrender」はk.d. langが歌い、エンド・クレジットに流れました。
落選したパルプの曲は、1997年にリリースしたシングル「Help The Aged」のB面に収録されています。
⑲『ワールド・イズ・ノット・イナフ』:同タイトル曲/ガービッジ
デヴィッド・アーノルドが、これまで「サンダーボール」「ダイヤモンドは永遠に」「トゥモロー・ネバー・ダイ」などの作詞を手掛けてきたドン・ブラックと組み、アメリカのロック・バンド、ガービッジが歌唱を担当しました。
2012年には、著名なネットサイト「Grantland」が、同曲を「ゴールドフィンガー」に続く歴代主題歌の名曲第2位に選んでいます。
落選した候補曲にはイギリスのポップバンドStrawの曲があるほか、また日本語版のエンディングのみにLUNA SEAの「Sweetest Coma Again」が使用されています。
⑳『007/ダイ・アナザー・デイ』:同タイトル曲/マドンナ
『007/リビング・デイライツ』への参加を打診され、その際には辞退したと言われるマドンナですが、15年を経ての再オファーを受諾し、そればかりか、シリーズ初となる本編にカメオ出演も果たしました。
デュラン・デュランの曲以来、英米両国のチャートでトップ10入りするヒット作となりますが、曲そのものについては賛否両論。ゴールデングローブ賞では最優秀主題歌賞にノミネートされるものの、一方でゴールデンラズベリー賞では最低主題歌賞にノミネートされました。
㉑『007/カジノ・ロワイヤル』:ユー・ノー・マイ・ネーム/クリス・コーネル
サウンドガーデンやオーディオスレイヴなどのバンドを渡り歩いた異才のアメリカ人ヴォーカリスト、クリス・コーネルが抜擢され、作曲と歌唱を担当しました。
主題歌「ユー・ノー・マイ・ネーム」は、エンド・クレジットに流れますが、サウンドトラックには未収録で、コーネル自身がリリースしたシングルCDのみが存在しています。
a-ha以来、19年ぶりの男性ボーカルであり、また新しいボンドにふさわしい斬新な楽曲でしたが、かねてからのコアなコーネルのファンを中心に賛否両論わかれました。コーネルは、2017年5月17日、ツアー先のホテルで52歳の若さで急死。自殺だったと言われています。
㉒『007/慰めの報酬』:アナザー・ウェイ・トゥ・ダイ/ジャック・ホワイト&アリシア・キーズ
ザ・ホワイト・ストライプスなどのボーカルおよびギターリストとして活躍するジャック・ホワイトと実力派歌姫のアリシア・キーズがコンビを組んだ、007シリーズ初となるデュエット曲です。才能あふれる2人のデュエットとあって大きな話題をよびましたが、斬新な曲調は好き嫌いがわかれ、必ずしもヒットにはつながりませんでした。
当初、エイミー・ワインハウスが有力候補としてデモテープの製作まで行っていましたが、当時すでにドラッグ中毒が進み、レコーディングに至る状況ではありませんでした。
㉓『007 スカイフォール』:同タイトル曲/アデル
007シリーズ誕生50周年にあたり、またロンドン五輪の年とあって、イギリスを代表する歌姫アデルが抜擢されました。
アデルが名コンビのポール・エプワースとともに手掛けた曲であり、世界的なヒットとともに、007シリーズの主題歌としては初となる第85回米アカデミー賞歌曲賞に輝きました。
ロンドン五輪の公式ソング「サヴァイヴァル」を手掛けたイギリスの人気ロック・バンド、ミューズの「スプレマシー」も候補でしたが、アデルに軍配が上がりました。
㉔『007 スペクター』:ライティングズ・オン・ザ・ウォール/サム・スミス
当初は、レディオヘッドが有力候補となり、「マン・オブ・ウォー」が提供されましたが、同曲が1990年代に書かれたものであり、映画のためのオリジナル曲ではなかったため却下。そこで、新曲「スペクター」が再提案されましたが、時すでに遅く、サム・スミスの楽曲が完成していました。ただ、レディオヘッドの「スペクター」は名作の誉れ高く、幻の主題歌とも言われています。
サム・スミスの曲「ライティングズ・オン・ザ・ウォール」は、アデルやレディオヘッドに比べて劣るとの評価でしたが、それでも007シリーズ主題歌としては初となる全英チャート1位、そして第88回アカデミー賞でも歌曲賞に輝きました。
ちなみに、レディオヘッドの「スペクター」は、2011年にフリー・ダウンロードでリリースされたほか、2016年のシングル「バーン・ザ・ウイッチ」のB面、またアルバム「ア・ムーン・シェイプト・プール」にも収録されています。
㉕『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』:同タイトル曲/ビリー・アイリッシュ
数々の映画音楽の名作を手掛けてきたハンス・ジマーが、新しく音楽監督に選ばれ、ビリー・アイリッシュが、当時18歳という007シリーズ最年少で主題歌を手掛けました。
新型コロナウイルスにより映画製作の遅延にも関わらず、楽曲は第63回グラミー賞の映像部門最優秀楽曲賞、また第94回アカデミー賞で歌曲賞に輝きました。
また、挿入歌として第6作目の主題歌、ルイ・アームストロングの「愛はすべてを越えて」が使用されました。
主題歌ベスト5・ワースト5<ランキング>
ドキュメンタリー映画『サウンド・オブ・007』の中では、リタ・クーリッジの「オール・タイム・ハイ」、シャーリー・バッシーの「ムーンレイカー」が失敗作の例として取り上げられていますが、果たしてそうでしょうか?
あくまでも個人的な好き嫌いでベスト5、ワースト5をランキングしてみました。
【ベスト5】
1位:『007/私を愛したスパイ』:ノーバディ・ダズ・イット・ベター/カーリー・サイモン
2位:『007/死ぬのは奴らだ』:同タイトル曲/ポール・マッカートニー&ウイングス
3位:『007/ダイヤモンドは永遠に』:同タイトル曲/シャーリー・バッシー
4位:『女王陛下の007』:愛はすべてを超えて/ルイ・アームストロング
5位:『007/ユア・アイズ・オンリー』:同タイトル曲/シーナ・イーストン
【ワースト5】
1位:『007/リビング・デイライツ』:同タイトル曲/a-ha
2位:『ゴールデンアイ』:同タイトル曲/ティナ・ターナー
3位:『007/ダイ・アナザー・デイ』:同タイトル曲/マドンナ
4位:『007/黄金銃を持つ男』:同タイトル曲/ルル
5位:『007/慰めの報酬』:アナザー・ウェイ・トゥ・ダイ/ジャック・ホワイト&アリシア・キーズ
007シリーズの映画そのものが低迷していた中期の主題歌には、やはり同じような迷いやパワー不足が感じられます。
007シリーズ第26作目は?公開はいつ?
合計5作品に出演したダニエル・クレイグが、第25作目をもって降板。しかし、2023年7月現在、次のボンド役もさまざまな名前が候補として挙がっているばかりで、まだ未決定の状態であり、進展がみられません。
そのため、公開は早くて2025年以降と言われています。