『藍宇-情熱の嵐』あらすじ・原作・ロケ地・考察【ネタバレ】

藍宇ー情熱の嵐ー 映画

中国のネットBL小説を、香港のスタンリー・クワン監督が2001年に映画化した『藍宇-情熱の嵐-』。

一部では、アメリカ映画『ブロークバックマウンテン』と比較する向きもあるなど、アジア圏におけるゲイ映画のアイコニックな作品として位置付けられています。

本記事では、そんな傑作『藍宇ー情熱の嵐ー』について、あらすじやキャストはもちろん、原作・メイキング・音楽・ロケ地まで徹底的に掘り下げ、ネタバレあり(閉じページ)で考察したいと思います。

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ゲイ映画の知られざる傑作『藍宇-情熱の嵐-』

藍宇(ラン・ユー)とは、主人公の青年の名前。天安門事件に揺れる北京を舞台に、10年に及ぶ二人の男の愛を描いたゲイ映画の傑作が『藍宇-情熱の嵐-』です。

2001年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品されて注目を集め、特にセンセーションをよんだ台湾では、第38回金馬奨で監督賞や主演男優賞含む主要5部門を受賞しました。

中国本土では長らく正式な上映はされませんでした。北京ゲイ映画祭に際し、北京大学の教室で一度だけ上映されましたが、その際には当局の調査が入ったほど……。2006年になってようやくDVDが発売されました。15周年には、北京や上海で、ファンによる自主上映会が開かれるなど、本土でも根強い人気を誇る作品です。

日本では、2002年8月に開催された東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でプレミア上映されたのち、2004年に公開されています。

あらすじ【閉じページにネタバレあり】

1988年の北京。貿易会社を営む裕福なチェン・ハントンは、一人の学生ラン・ユーを部下に紹介され、金銭を介在した割り切った関係を持ちます。

享楽的なハントンにとっては行きずりの遊びでしたが、純粋なラン・ユーは本気で慕うようになり、数か月後の再会をきっかけに交際に至るのでした。

しかし、ハントンの浮気が発覚して喧嘩別れ。そうした中、1989年6月4日、天安門事件が起こります。ラン・ユーのことが心配になり、必死に探し回るハントン。深夜、ようやく無事を確認し、再びヨリを戻すことに……。

ラン・ユーの大学卒業を祝い、ハントンは二人で暮らす家を買い与えますが、しばらくして仕事で出会ったのが、聡明で美しい女性リン・ジンピン。ハントンはリンに惹かれ、結婚に至りますが、別れ話を切り出されたラン・ユーは泣きながら家を去り、以来、姿を消してしまうのでした。

リンとの結婚はわずか3年足らずで終わります。やがて、空港の駐車場でハントンとラン・ユーが再会。出会ってから10年が過ぎても互いの気持ちが変わらないことに気づき、恋人同士に戻ることになります。

しかし、ようやく落ち着いた関係が続くかと思われたその矢先、ハントンの事業に不正疑惑が持ち上がり、公安警察によって逮捕されてしまいます。家を売ってお金をつくってくれたラン・ユーの尽力もあり、ようやく釈放に至るのですが……。

朝、いつものように仕事に出かけるラン・ユーを見送るハントン。事業を再開する準備を始めていたハントンに一本の電話が……。

建設現場で働いていたラン・ユーが事故死したという知らせであり、変わり果てたラン・ユーの遺体を前に、ハントンは泣き崩れるのでした。



主人公2人とキャスト

チェン・ハントン(陳捍東)/演:フー・ジュン(胡軍)

富裕層の子息で、貿易会社を営む実業家にしてバイセクシャルの男チェン・ハントンを演じたのは、フー・ジュン(胡軍)です。

フー・ジュンは、1968年3月18日、北京に暮らす芸能一家に生まれました。名門国立演劇大学の中央戯劇学院を卒業。その後は、北京人民芸術劇院に所属し、数々の舞台・映画・ドラマに出演してキャリアを積みました。

ゲイに翻弄される警察官を演じた1997年の映画『東宮西宮』(邦題:インペリアル・パレス)がカンヌ国際映画祭で話題を呼んだばかりか、イタリア・タオルミナ国際映画祭で主演男優賞を受賞します。しかし、その内容ゆえ中国国内では上映禁止となり、俳優として注目されることはありませんでした。

本作『藍宇〜情熱の嵐〜』で香港金紫荊奨最優秀主演男優賞を受賞し、ようやく人気俳優の地位を確立しました。

その後は数々の大作・話題作に抜擢され、代表的作品には、2003年の映画『インファナル・アフェア 無間序曲』、2008年と2009年の『レッドクリフ』2作、2009年の『孫文の義士団』などがあります。

本作でスタンリー・クアン監督のお気に入りとなり、ドラマ『画魂 愛の旅路』、映画『長恨歌』と連続してキャスティングされています。

私生活では、同じ劇団所属の女優・ルー・ファン(盧芳)と1999年に結婚。2001年に長女、2008年に長男をもうけました。ルー・ファンは本作にハントンの妹役で共演しています。

ラン・ユー(藍宇)/演:リウ・イエ(劉燁)

働きながら建築を学ぶ真面目な学生ラン・ユーを演じているのは、リウ・イエ(劉燁)です。

リウ・イエは、1978年3月23日生まれ、吉林省長春市出身。フー・ジュンと同じ中央戯劇学院で学び、在学中に映画『山の郵便配達』で俳優デビューすると、すぐに注目を集めました。

卒業後に出演した本作で、台湾の金馬奨最優秀主演男優賞を史上最年少で受賞しています。

その後は、数々の映画やドラマに出演し、複数の賞を受賞する演技派として活躍。代表的な映画作品には、2001年の『小さな中国のお針子』、2003年の『パープル・バタフライ』、2006年の『王妃の紋章』、そしてメリル・ストリープと共演したハリウッドデビュー作『アフター・ザ・レイン』などがあります。

私生活では、女優・歌手のシェ・ナー(謝娜)と長い間交際していましたが破局し、その後、2009年に写真家兼新聞の北京支局記者だったフランス人女性Anais Martaneと結婚しました。2010年に長男、2012年に長女をもうけています。

そんなこともあってフランスとの縁が深く、2016年にはフランスのリビエラの親善大使に任命されたほか、2018年にはニースの名誉市民になっています。

監督スタンリー・クワンについて

スタンリー・クワン(關錦鵬)は、1957年10月9日、香港生まれ。香港浸会大学卒業後、民放のテレビ局TVB(無綫電視)で職を得ます。1985年にチョウ・ユンファ主演で撮った映画デビュー作『女人心』が大ヒットし、注目されました。

1987年の『ルージュ』、1989年の『フルムーン・イン・ニューヨーク』、1991年の『ロアン・リンユィ 阮玲玉』と立て続けに秀作を手掛け、1998年の『ホールド・ユー・タイト』は、ベルリン国際映画祭でアルフレッド・バウアー賞と、LGBTQ作品に与えられるテディ賞のW受賞に輝きました。

1996年に発表したドキュメンタリー映画『男生女相』の中で、ゲイであることをカミングアウト。オープンリー・ゲイの監督としてその個性を生かした作品を発表しています。

2018年の映画『8人の女と1つの舞台』公開にあたり、同年の東京国際映画祭に出席するため来日も果たしています。その後の香港の混乱もあってか、新作の予定は発表されていません。



原作小説『北京故事』と結末の違い【閉じページにネタバレあり】

原作は、匿名のインターネット小説として中国で発表され、のちに台湾で書籍化した『北京故事』です。日本でも、2003年に北京同志著『北京故事 藍宇』の邦題で刊行されました。

中国では、当初、同性愛専門サイトに発表されたものでしたが、口コミで話題をよび、大手の小説投稿サイトに掲載されるようになってからは、一部ホモフォビアのバッシングを受けたようです。

映画は、多少の省略などがあるものの、基本的に原作に忠実に作られており、原作者(女性)も、本映画化をとても気に入っていると、あとがきの中で語っています。

ただ、原作において決定的に違うのは、映画で描かれた10年の、その前後数年を知ることができること。

ラン・ユーを亡くしてから3年後、ハントンはカナダのバンクーバーに移住し、若い妻を迎えて再婚します。

その揺れ動く心境が、神への祈りの言葉としてラスト数ページで語られるのです。

原作を読んだ人は、涙なくして読めないこのラストが映画にはないことを残念に思うようです。

メイキング映像『藍色宇宙』について

SELL DVDにのみ収録されている特典映像が、『藍色宇宙』と名付けられたメイキング映像です。

これだけでまるで1本の短編映画を観るような完成度があり、ファン必見とも言われているのは、映画で省略されている部分を、このメイキングで補完することもできるためです。

たとえば、ハントンがリンとの結婚生活に破綻した理由、天安門事件を挟んだ二人の行動、そして二人のより細かな心の動きがそれぞれのナレーションで綴られます。

さらにDVDには、メイキングの他、主役二人のスペシャル・インタビューも収録されています。

フー・ジュンの好きなシーンは、テーマソングが流れて、背景が飛ぶように流れていくエンディングだとか……。一方、リウ・イエの好きなシーンは、結婚を決意したハントンから別れを切り出され、思わず泣いてしまう場面で、撮影では本当に感極まり、嗚咽してしまったと告白しています。

撮影ロケ地

撮影は、当局には告げず、広告撮影の名目でゲリラ的に行われました。

ロケ地として使用された場所には、杭州華北ホテル(別名:ノースチャイナホテル)、北京友誼賓館(別名:フレンドシップホテル)、北京農業大学(現・中国農業大学)、什刹海などがあります。

冒頭、二人が最初に関係を持つシーンが撮影されたのは杭州華北ホテルです。

黄品源(ホァン・ピンユェン)の歌う「你怎麼捨得我難過」

ラストシーンからエンドロールに流れる印象的な歌は、台湾の人気歌手である黄品源(ホァン・ピンユェン)が歌う「你怎麼捨得我難過」です。

「How can you allow me to be in sorrow」という英語タイトルもつけられていますが、日本語に意訳すると、「なぜ君は僕をそんなに悲しませるの?」となるのでしょうか?

叶わぬ恋の歌であり、劇中でも、ラン・ユーが好きで口ずさむ歌……。

少々ベタなメロドラマ調のバラードは、好き嫌いが分かれるようですが、聞けば聞くほど、心に沁みてくる不思議な歌です。歌詞が物語にぴったりなことにくわえ、実際、1990年代、北京のゲイの間で非常に人気があった曲だったようです。



『藍宇-情熱の嵐-』の考察・感想レビュー

主人公は、貿易会社を営む裕福なチェン・ハントンと建築を学ぶ学生ラン・ユー。

出会いこそ金銭絡みであったが二人はすぐに魅かれあい、数年後には、郊外に購入した一軒家で同棲にまで至る。しかし、まだその内装も完成しないうち、ハントンは美しい通訳の女性と出会い、ラン・ユーを捨てて彼女を選ぶ。

「僕はこの家で待たないよ」と嗚咽しながら荷物をまとめるラン・ユーと、それをもはや無言で見つめるだけのハントンの微妙な距離間が辛い。

別れ話のとき、二人の前にしっかりと存在感を持って置かれている赤ワインは、婚約者の存在を意味するものだろう。ちなみに、のちに離婚したハントンは、もはやワインではなく、ビールをひたすら飲む男になっている。最初の頃はウィスキーばかりであり、ハントンの飲む酒は、彼自身の変化を象徴しているかのようだ。

結婚と離婚、ビジネス上の理由による逮捕と投獄といった試練を経て、やっと真に大切なものの存在に気づくハントン。

それまでのハントンは、享楽的で挫折を知らず、また、悪意のない残酷さや育ちのよさからくる無頓着さなど、まるで子供のような素直さを持った男であった。義弟にビジネス上のアドバイスをしてもらってもそれを真剣に考慮することはなく、また仕事のパートナーであるリウが妻の病に際し「自分には妻しかいないと改めて思う」と消沈していても、決してその気持ちは理解できていないのである。

結婚相手のリンが言う。

「伯母は鈍感な男の方がいいと言う」

聡明なリンは、暗にハントンのことを鈍感だと言っているのである。



しかし、同時に確かなことは、ハントンの鈍感さ、残酷さは、それゆえに魅力的だということである

純粋で一途だが本心を覆い隠し、心の中ではネガティブに物事を思い悩んでしまうラン・ユーのような人間が、このような男に魅かれないはずはない。苦しむことがわかっていても、自分にはない、彼のその奔放さは抗いきれない魅力を放つのだ。

例えば、藍宇の家で、酔っぱらってソファに寝込んでしまうハントン。よりを戻したいとは言いだせず、ぐずぐず居座って、帰ろうとしなかったであろうハントンは、いじらしいほどに可愛く思えただろう。また、釈放されたお祝いの席で子供のようにはしゃぐハントンと、それをいさめるラン・ユー。

自分の全てを捧げるに値する男、自分のために泣いてくれる男、最後は必ず自分の元に戻ってきてくれる男……。ゲイ一般から見ても、ハントンは、ナルシスティックな願望を満たしてくれるという点で、最高に理想的な男性である。

それは、ゲイであるクアン監督の視点がラン・ユーに置かれていたということに他ならず、おそらく、監督自身、撮影中はハントンに恋をしていたはずである。

最後、ようやく二人の平穏な幸せが成就するかと思った瞬間に悲劇が待っているというのは、あまりに切ない。それによって二人の愛は、精神的な高みにまで昇華されるのだが、やはりそのような形でしか、汚されることのない愛は成立しないというのだろうか。

エンディングのブルーの景色が流れるシーン。

工事囲いのような青い障害物のため、その向うの景色はよく見えない。青い障害物が途切れて、やっと向うの建物がはっきり見えたとき、この映画は終わる。

青いものは物事の表層、そして、その向うの景色は、奥底にある真実だと考えるとどうだろう。

真実がやっと掴めたとき、人生というものは終わってしまうのだ。

『藍宇』20周年記念の4K修復版ブルーレイ発売!

2001年の公開から20周年を迎えたのを記念し、2021年12月には台湾で4K修復版が発売されました。

スタンリー・クワン監督の最新インタビュー映像を収録した特典映像や、特製ポストカード、アウターケースなどさまざまな特典のある日本版もリリースされていますので、ファンならぜひ手に入れたいところです。

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