『東京物語』と並び称される、小津安二郎監督の代表作の一つ『麦秋』(1951年公開)。
原節子が紀子という名の女性を演じる「紀子三部作」のうち、『晩春』(1949)と『東京物語』(1953)の間にはさまれた2作目にあたります。
ここではそんな映画『麦秋』について、簡単なあらすじとキャスト紹介ののち、見どころポイントを感想・解説を交えてレビューしたいと思います。
小津安二郎監督による「紀子三部作」の一つ『麦秋』(1951)
小津4K 巨匠が見つめた7つの家族【上映作品ご紹介】「麦秋」大家族
— 松竹シネマクラシックス公式アカウント (@CINEMACLASSICSS) June 10, 2018
戦争の傷を抱え生きる家族の崩壊と再生。人間の無常を描く珠玉の名作
「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」@6/16〜22新宿ピカデリー、6/23〜7/7角川シネマ新宿
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あらすじ
北鎌倉に居を構える間宮家。
そろそろ田舎に隠居しようかと考えている老夫婦、医師をしている長男夫婦と二人の子どもたち、東京の会社勤めでまだ独身の長女という、三世代の大家族です。
長女の紀子が、上司から縁談をすすめられます。嫁き遅れを心配し早く嫁がせたい兄の康一、いつにもまして言葉少ない父の周吉、相手の年齢を気にする母の志げや義姉の史子ら、それぞれの立場で紀子を思い、余計な気を回す中、当の本人はあっけらかんとしていて、嫁ぐ気があるのかすらはっきりせず……。
そんな中、ある日突然、紀子は、近所に住む子持ちの男やもめ、矢部との結婚をあっさり承諾してしまうのでした。
主要登場人物とキャスト
- 間宮紀子(長女)/原節子
- 間宮康一(長男)/笠智衆
- 間宮史子(長男の嫁)/三宅邦子
- 間宮周吉(父)/菅井一郎
- 間宮志げ(母)/東山千栄子
- 田村アヤ(紀子の友達)/淡島千景
- 矢部たみ(隣人)/杉村春子
『麦秋』の解説・感想レビュー
小津安二郎作品の中でもとりわけ傑作と名高い『麦秋』。「紀子三部作」の他2作『晩春』と『東京物語』にくらべると、よりさらりとした味わいが特徴だ。
三世代が暮らす大家族を舞台に、物語は、紀子の縁談を軸に展開する。
間宮家は、言ってみれば、古き良き家族の理想的な姿である。
周吉は事あるごとに、「今が一番幸せなときだ」と呟く。
しかし、誰も声高に語らぬものの、実は次男・省二の戦死が、間宮家に静かな暗い影を落としているのである。そして、紀子はおそらく無意識に、その欠落を埋めようと矢部選ぶ。
矢部は、省二を誰よりもよく知る、高校時代からの親友なのだ。
淡島千景演じる女友達アヤから、矢部のことが好きなのかと問われて、頑なにそうじゃなく、安心できると思ったからだと答える紀子。
紀子が安心を求めるのは、自分のためというより、むしろ家族のためである。それゆえ、自身の結婚と親の隠居ではからずも家族がバラバラになってしまうことに気づいた紀子は、さめざめと泣くのである。
本作の際立った特徴は、影の薄い男たちに対し、女たちが生き生きと行動的なことである。
また、作品全体をとりわけ軽やかな雰囲気にしているのは、紀子と女友達4人組のコミカルなやりとりに負うところが大きいかもしれない。
そして、何より、紀子と義姉の関係である。
家族で唯一血のつながらない存在ながら、史子は心から紀子のことを心配し、ときに素の女同士になって語り合う。
終盤、二人がなぜかほとんど同じような服を着て、砂浜にたたずみ、並んで歩くシーンのしみじみとした美しさといったらどうだろう。
どこか謎めいた二人の親密さは、家族というものに一つの問いを投げかけ、また本作が女の物語であることを象徴しているかのようである。
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