【横溝正史の金田一耕助シリーズ】映画の時系列一覧・おすすめ/駄作はどれ?

横溝正史・金田一耕助シリーズ 映画

昭和を代表する大ベストセラー作家・横溝正史が生んだ、日本の推理小説に登場する最も有名な探偵の一人、金田一耕助。それらは一般に「金田一耕助シリーズ」と呼ばれ、これまで数多くの映画・テレビドラマ・舞台化などがなされて、時に一大ブームを巻き起こしてきました。

本記事では、そんな「金田一耕助シリーズ」の中から映画化作品に焦点を当て、わかりやすい時系列表、演じた俳優一覧などにくわえ、個人的なおすすめ作品をランキング形式でご紹介します。

まずは原作者・横溝正史について簡単に触れたいと思います。

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横溝正史は1902年(明治35年)5月24日、兵庫県神戸市生まれ。薬学の専門学校に在学していた18歳のときに執筆した小説『恐ろしき四月馬鹿』が、雑誌の懸賞小説に当選しデビューに至ります。

雑誌の編集長、肺結核罹患、戦争と疎開などを経て、その間複数の小説を発表し続けますがとりわけ大きな話題を呼ぶことはなかった中、戦後の1948年、金田一耕助が初登場する『本陣殺人事件』を発表。第1回探偵作家クラブ賞(後の日本推理作家協会賞)長編賞を受賞し、以後、日本を代表する本格的推理小説の作家として、めざましい活躍をすることになりました。

中でも、1971年にスタートした角川書店による刊行シリーズと映画化作品が一大ブームを巻き起こします。推理小説家の枠を超えたベストセラー作家となりながら、晩年まで精力的に執筆を続けました。

1981年(昭和56年)12月28日、結腸ガンにより79歳で死去。遺作は、雑誌連載を経て1980年に刊行された『悪霊島』であり、「金田一耕助シリーズ」最後の作品にも相当します。

私生活では、1927年に結婚した妻・孝子との間に、長女・高松冝子、長男・横溝亮一、次女・野本瑠美がいますが、次女以外は故人のようです。

既述のとおり、初登場した1948年刊の『本陣殺人事件』に始まり、金田一耕助が登場するシリーズは、一般に長編・短編含めて全77作品あるとされています。それ以外にも、別の作家が改稿したりしたティーン向けの作品も数作確認されています。

中には、複数回映像化されている作品も少なくなく、例えば最も映像化作品の多い『犬神家の一族』を見ると、以下の通り、映画とテレビドラマだけで11度。他にも複数回、舞台版が上演されています。今後、さらに増えることは間違いないでしょう。

メディア製作金田一耕助役備考
1954映画東映京都片岡千恵蔵『犬神家の謎 悪魔は踊る』、フィルム現存せず
1970ドラマ日本テレビ系登場せず『蒼いけものたち』、金田一ではなく弁護士が解決
1976映画角川映画石坂浩二市川崑・石坂浩二の最初のコンビ作品
1977ドラマTBS系古谷一行『横溝正史シリーズI」、古谷が初めて金田一役
1990ドラマテレビ朝日系中井貴一「横溝正史傑作サスペンス」
1994ドラマフジテレビ系片岡鶴太郎「横溝正史シリーズ5」
2004ドラマフジテレビ系稲垣吾郎「金田一耕助シリーズ」
2006映画角川映画石坂浩二市川崑自身による完全リメイク
2018ドラマフジテレビ系加藤シゲアキスペシャルドラマとして放送
2020ドラマNHK池松壮亮「シリーズ横溝正史短編集II 金田一耕助踊る!」30分の短編
2023ドラマNHK吉岡秀隆「金田一耕助」シリーズ、前編・後編で放送

金田一耕助解決した最後の事件が描かれる小説は、1978年に刊行された『病院坂の首縊りの家』。事件は1953年(昭和28年)に始まり、解決するのは20年後の1973年(昭和48年)という長期に渡る難事件でした。

ちなみに、その後の1980年に刊行された横溝の遺作『悪霊島』は、1967年(昭和42年)の事件を描いたものであり、「病院坂」の事件はいまだ未解決の時期にあたります。



金田一耕助シリーズは、数多くの映画化、テレビドラマ化、舞台化、ラジオドラマ化がなされてきたこともあり、これまで金田一を演じた俳優も、かなりの数に上ります。

映画版だけで13人、テレビドラマ版だけでも15人。特に有名なのは、なんと言っても、6作の映画に出演した石坂浩二、テレビの「横溝正史シリーズI・II」「名探偵・金田一耕助シリーズ」などに出演した古谷一行でしょう。

戦後まもなくの作品にも、片岡千恵蔵が合計6作品で金田一を演じていますが、残念ながらすべてが現存しているわけではありません。また当初は、端正な洋装姿でしたが、石坂浩二以後、和装の少々個性的キャラが確立しました。

戦後から60年代の前期の作品と、角川春樹が関わり、横溝ブームを巻き起こした70年代以降の作品は分けて考える必要があります。

実際、前期の作品には紛失し現存していないものも少なくありません。

公開年タイトル製作監督金田一耕助役
1947三本指の男(本陣殺人事件)東横映画松田定次片岡千恵蔵
1949獄門島東映京都松田定次片岡千恵蔵
1951八つ墓村東映京都松田定次片岡千恵蔵
1952毒蛇島綺談 女王蜂大映田中重雄岡譲司
1954.4悪魔が来りて笛を吹く東映京都松田定次片岡千恵蔵
1954.8犬神家の謎 悪魔は踊る(犬神家の一族)東映京都渡辺邦男片岡千恵蔵
1954.10幽霊男東宝小田基義河津清三郎
1956.4吸血蛾東宝中川信夫池部良
1956.4三つ首塔東映京都小林恒夫/小沢茂弘片岡千恵蔵
1961悪魔の手毬唄ニュー東映渡辺邦男高倉健

高倉健主演の1961年の映画から10年以上のブランクを経て製作された70年代の作品により、一大ブームが巻き起こります。

公開年タイトル製作監督金田一耕助役
1975本陣殺人事件映像京都+ATG高林陽一中尾彬
1976犬神家の一族角川映画/東宝市川崑石坂浩二
1977.4悪魔の手毬唄角川映画/東宝市川崑石坂浩二
1977.8獄門島角川映画/東宝市川崑石坂浩二
1977.9八つ墓村松竹野村芳太郎渥美清
1978女王蜂角川映画/東宝市川崑石坂浩二
1979.1悪魔が来りて笛を吹く角川映画/東宝斉藤光正西田敏行
1979.5病院坂の首縊りの家角川映画/東宝市川崑石坂浩二
1979.7金田一耕助の冒険(瞳の中の女)角川映画/東映大林宣彦古谷一行(三船敏郎)
1981悪霊島角川映画/東宝篠田正浩鹿賀丈史
1996八つ墓村東宝/フジテレビ市川崑豊川悦司
2006犬神家の一族角川映画/東宝市川崑石坂浩二



シリーズの全映画を鑑賞したわけではありませんが、個人的なおすすめ、残念に思った作品を3作ずつランキング形式でご紹介しましょう。

ベスト1位:『犬神家の一族』(1976年版)

角川春樹x市川崑x石坂浩二の組み合わせにより、文字通り横溝正史ブームのきっかけとなった作品ですが、単なる物語の面白さや話題性のみならず、映画としても非常に完成度の高い作品です。

金田一耕助役として石坂浩二の抜擢はもちろん、犬神家3姉妹を演じた高峰三枝子、草笛光子、三条美紀はじめ、役者陣の豪華さは群を抜いているのではないでしょうか? この時期の製作費は莫大でした。また大野雄二の手掛けた音楽「愛のバラード」も名曲中の名曲ですね。

ベスト2位:『獄門島』(1977年版)

上記『犬神家の一族』に続き、立て続けに公開された作品はどれも見ごたえがありますが、市川x石坂作品では、『獄門島』がおすすめです。

何より小説自体が傑作として高い評価を得た物語の面白さ、そして孤島を舞台にしたロケーションの素晴らしさは、その後の作品に多大な影響を与えました。真犯人を原作小説とは別の人物に変更するという大胆な脚色が話題になりましたが、それが成功した稀有な例でしょう。

ベスト3位:『八つ墓村』(1977年版)

『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『獄門島』の3作によって構築された市川x石坂版の強烈なイメージと世界観に対し、松竹が対抗するように製作した作品ですが、当初の不安や疑問視を裏切る出来となり、大ヒットを記録したのが1977年版『八つ墓村』です。

金田一耕助役として大スター・渥美清という大胆な起用にくわえ、監督・野村芳太郎、脚本・橋本忍、音楽・芥川也寸志とさすが超一級の豪華な面々を取り揃えたのは松竹の意気込みが感じられるます。セリフは流行語となり、社会現象すら巻き起こました。

ワースト1位:『金田一耕助の冒険』(1979年版)

テレビドラマの「金田一耕助シリーズ」で金田一を演じていた古谷一行を迎えた映画化作品であり、『瞳の中の女』を原作としつつも、パロディ的要素の強い異色作であり、シリーズの一つとしてわざわざ観るべき作品とは言えません。

三船敏郎が劇中劇として金田一耕助を演じているなど、様々な要素が盛りだくさんでよくわからない作品です。

ワースト2位:『犬神家の一族』(2006年版)

市川崑が、何を血迷ったのか石坂浩二以外のキャストを変更しただけで、まったく同じ演出・世界観で制作した意味不明の作品です。

変更したキャストは、1976年版よりはるかにランクダウンしており、すべてにおいて1976年版より劣っているという点で、わざわざリメイクを製作した意味があるのでしょうか?物珍しさで一度は鑑賞してみても、やはり1976年版の素晴らしさを再確認する結果となるでしょう。

ワースト3位:『女王蜂』(1978年版)

市川x石坂コンビの作品の中で、最も出来が悪いと思った作品は『女王蜂』です。重要なヒロインを新人でまだまともな演技のできない二世俳優・中井貴恵を抜擢したこと、過去のシリーズに出演した大女優3人、『犬神家の一族』の高峰三枝子、『悪魔の手毬唄』の岸惠子、『獄門島』の司葉子を共演させたことなど、内容より宣伝となる話題性を重要視したことが作品を台無しにしました。

上記ワースト2位と同じく、市川崑の欠点が露骨に出てしまった作品です。



以上、2025年2月現在の「金田一耕助シリーズ」の映画についてまとめてみました。

間違いなく今後も、あらたな作品・リメイクが製作されていくことはほとんど間違いないでしょう。

それだけ、横溝正史の作り出した世界が時代を超えて日本人の心の琴線に触れるものであることの証であり、また、金田一耕助というキャラクターが、俳優にとって一度は演じてみたい役柄でもあるのでしょう。

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