『洲崎パラダイス赤信号』あらすじ/キャスト/ロケ地/感想【川島雄三】

洲崎パラダイス赤信号 映画

1956年に公開された『洲崎パラダイス赤信号』は、『幕末太陽傳』と並ぶ、川島雄三監督の代表作の一つです。

吉原と並ぶ赤線地帯だった東京の洲崎を舞台に、ふらりと流れついてきた男と女のやるせない関係が描かれます。

本記事では、そんな日本映画の傑作『洲崎パラダイス赤信号』について、あらすじやキャストなど作品紹介、ロケ地の現在、そして感想と考察をまじえてレビューしたいと思います。

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川島雄三監督の代表作の一つ『洲崎パラダイス赤信号』

①あらすじ

お金も家もない若い男女、蔦枝と義治が、洲崎にある赤線地帯にふらりと流れ着きます。元娼妓の蔦枝は、一杯飲み屋「千草」で女中の仕事にありつき、義治は、女将であるお徳に紹介されて、いやいやソバ屋の出前の仕事を得ます。

互いの異性関係に嫉妬し、たわいもない喧嘩を繰り返しながらも、別れることができない2人。

一方、女手一つで2人の息子を育てている女将のお徳にも、ある事情がありました。

②キャスト

蔦枝/新珠三千代
義治/三橋達也
お徳/轟夕起子
玉子/芦川いづみ

③川島雄三監督について

独特のセンスあふれる風俗喜劇で知られる川島雄三監督は、1918年2月4日、青森県生まれ。

小津安二郎や木下惠介ら名だたる巨匠の助監督を経て、1944年に監督デビュー。戦後、松竹で20作品あまりを手掛けたのち日活に移籍し、日本映画史に残る傑作を発表します。

1956年公開の『洲崎パラダイス赤信号』は、翌年の『幕末太陽傳』と並ぶ、川島雄三の代表作の一つです。他にも、東京映画に移籍して発表した『雁の寺』など、若尾文子と組んだ一連の作品も有名で、若尾を女優として開眼させた監督としても知られています。

筋萎縮性側索硬化症を患い、足に障害を負いながら映画製作に取り組んでいましたが、1963年、肺性心により45歳で急逝しました。今村昌平監督は川島の弟子です。

④原作は芝木好子の風俗小説

原作は、戦後を代表する女流作家の一人、芝木好子が1954年に発表した短編集『洲崎パラダイス』です。

芝木好子は、1942年に『青果の市』で芥川賞を受賞。生まれ育った東京の下町に生きる人々の哀切や男女の関係を好んでテーマにした作家です。

また、同短編集に収録された一編『洲崎の女』も、溝口健二監督の映画『赤線地帯』の原作の一つとして知られています。

⑤ロケ地の今

冒頭、蔦枝と義治が口喧嘩しているのは勝鬨橋(かちどきばし)です。周囲はすっかり様変わりしましたが、橋だけは当時の趣を残しています。

映画の中でも印象的な「洲崎パラダイス」と書かれた門があった運河も現在は埋め立てられて遊歩道になっています。

飲み屋の「千草」があった場所の現在です。



『洲崎パラダイス赤信号』の解説・感想レビュー

『洲崎パラダイス赤信号』の舞台は、その名の通り、明治以降、吉原と並ぶ遊郭と称された洲崎の赤線地帯。現在の江東区東陽一丁目にあたり、特に戦後は「洲崎パラダイス」の名で栄えていた。入口にあったネオン管で彩られたアーチ型の門は、この映画の中でも実に象徴的にとらえられている。

新珠三千代演じる蔦枝は、元娼妓だけあって、口が達者で行動力がある。一方、三橋達也演じる義治は、甲斐性がないばかりか、いつもふてくされて覇気がない。

いらだった蔦枝が義治に言う。

「二言目には死ぬ死ぬって、人間死ぬときまで生きなきゃなんないですからね」

早速行動に移し、洲崎パラダイス入り口の河沿いに立つ一杯飲み屋「千草」に飛び込み、すぐに住み込み女中の仕事を得る蔦枝に対し、義治は、ソバ屋の出前さえ気が進まない。

互いの行動を疎ましく思い、苛立ち合いながらも、やはり好きあっていて腐れ縁のように離れることができない2人。蔦枝は、常連客で小金持ちの電気屋を捕まえ、義治には、ソバ屋の若い娘が心を寄せてくるも、二人は結局、元のさや。

また、「千草」のお徳も、数年前に若い女中と駆け落ちした夫を、未だ待ち続けているという設定である。

終盤、ついに、その夫が戻ってくるのだが……。

この映画の2年後、1958年の売春防止法施行と共に、洲崎パラダイスは閉鎖される。

変わりゆく時代と街……それでも滔々と流れる川のように、昔から変わらぬ男女の営み。

「あたしたち、この河の手前にいるのねえ。やっぱり、ここへ来たんだわ」

蔦枝が、しみじみとそう嘆いた洲崎の河も、今は埋め立てられて遊歩道兼公園に……。

実際に洲崎で撮影された、当時の街の風景だけでも必見の価値がある。湾岸エリアの埋立地開発のため、頻繁に大通りを行きかうトラックの姿が、街のその後を予見させる。

冒頭とラストで、二人がしみじみとたたずむ勝鬨橋だけは、今もその姿を残している。

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