春夏と秋冬の年に2度、アパレルブランドが、ファッションショーやプレゼンテーションの形で新しいコレクションを世界中のジャーナリストに向けて発表するのが、パリコレやミラノ・コレクションと呼ばれるものです。
しかし、新型コロナウイルスによって、特定の会場にジャーナリストやバイヤーを招いてショーをみせるという方法が事実上不可能になったため、多くのブランドが映像によるプレゼンテーションを自社ホームページやYouTubeで配信するという手法に切り替えました。
とは言っても、そこは、センスと最先端を競うファッションの世界。単にショーや新しいコレクションをスタジオで撮影するというような単純なものではなく、まるでショートフィルムのような凝りに凝った見ごたえのある映像表現になっています。
本記事では、2021年2月終わりから3月にかけて発表されたウィメンズの2021-22秋冬パリコレ・ミラノコレクションに限定し、映像として面白さ、完成度という観点からトップ5とワースト5を独断と偏見で選んでみました。
新型コロナウイルスによって様変わりしたファッションショー!
新型コロナウイルスによって必要に迫られた変化ではありますが、一般の限られた招待者だけではなく、誰もが映像で楽しむことができるという点では、決して悪いことばかりではありません。
今回のランキングは、洋服そのものの評価ではなく、あくまでも映像についてであり、しかも個人的好き嫌いに基づいたものです。また、どうしても世界的に名の知られたビッグ・メゾン中心になっています。
まずはワースト5からです。
ワースト5
5位:シャネル
ダイアナ・ロスの歌う名曲「マホガニーのテーマ」という素晴らしい選曲で始まる冒頭のモノクロ映像は秀逸。ただ、歌と映像が微妙に合っていないのでは?というかすかな違和感が、まさにその通りになってしまいます。一転して、暗いナイトクラブでコレクションをみせるシーンに移ると、なんだか退屈で、冒頭とのつながりも全く感じられないのです。
サガンやミック・ジャガーも常連だったというパリの老舗ナイトクラブ「シェ・カステル」で撮影されたようですが、それを知ったところでただの狭苦しい場末の空間にしか見えません。
ストリート系ブランドならともかく、なによりシャネルらしさが感じられず、これまで「グランパレ」の巨大空間を利用した壮大なショーで魅了してきただけに、期待外れでした。
4位:ジョルジオ・アルマーニ
ジョルジオ・アルマーニのショーはいつもと同じミラノにある自社会場アルマーニ・テアトロで、観客を入れずに発表されました。
過剰な演出や品のない装飾を省き、シンプルに上質な洋服を淡々とみせていくというスタイルは、アルマーニのブランド哲学にも合致し、それでいいかと思うのですが、今回なぜか、ランウェイの中央に、ただただ奇妙としか言いようのないグリーンの安っぽいゴリラのオブジェが……。
なぜゆえゴリラなのでしょうか? 見たところ、コレクションにゴリラのモチーフがあるわけでもなさそうです。コンセプトシートを読めばなんらかの意味や皮肉が込められていそうですが、映像としてそれをみせられても、終始、意味不明のままで終わってしまいました。
3位:ミュウミュウ
標高の高いアルプスの雪山を歩くモデルたちの姿でコレクションを発表したのがミュウミュウです。
ロケとCGを組み合わせた映像にも見えますが、それ自体は美しく、よくできています。ところが、およそ雪山を歩くにはあまりに場違いな非機能的な洋服も多々。中には、ノースリーブのレースを着ている者がいたりして、もう凍死レベルです。
傾向として、秋冬と春夏コレクションの差異はどんどんあいまいになりつつありますが、ここまでくると、季節外れを通り越して、単なる「おバカ」に見えてしまいました。
2位:エルメス
まず冒頭や終盤のさして上手くもないダンスシーンが意味不明で退屈。そして、その後のコレクションシーンは、伝統と高品質を誇る老舗トップブランド、エルメスらしかぬチープ極まりないセットになってしまいました。
オレンジのエルメスカラー一色に仕立て上げたものの、帽子ボックスのようなただの円筒形の立体をあちらこちらに積み上げただけで、まるでバラエティ番組のセットのようです。
選曲もなんだか中途半端で、途中、撮影のカメラマンが頻繁に映り込むのもよくわからない演出でした。なぜか公式チャンネルからは削除されているようです。
1位:ヨージ・ヤマモト
狭い店内か、もしくは撮影スタジオで撮ったかのような安易な舞台、安っぽいカーテン、中途半端な日本人モデルたち、凡庸なカメラワークと編集、古臭い選曲……と、どれをとってもあまりにお粗末な出来で、観ているのもつらくなってしまいます。
正直言って、お金をかけていないというのが丸わかり。しかも映像としての完成度も、まるで学生や素人のレベルで、ブランドにとってむしろイメージダウンではないでしょうか?
映像での発表すら取りやめるメゾンも多くある中、このレベルの動画ならやらない方がよかったのではないかと思ってしまいました。
ベスト5
5位:ジャンニ・ベルサーチ
新型コロナウイルス時代のキーワードである「隔離」と「ステイホーム」をコンセプトに、ポップでスタイリッシュな映像に仕立て上げてみせたのがベルサーチです。
演出を手掛けたのは、著名ファッション誌やブランド広告を多数手がける大御所写真家のゴードン・ヴォン・スタイナー。カメラワークも最先端の音楽も見事です。
トップモデルをずらりと揃え、さすがの存在感でポージングとウォーキングをしてみせるのもゴージャスなベルサーチにふさわしく、まるで有名アーティストのミュージックビデオのような高い完成度になりました。
4位:サルバトーレ・フェラガモ
セットとCGを組み合わせ、映画『スタートレック』や『ダイバージェント』のようなSF近未来空間を作り上げたのが、伝統と革新を誇るイタリアの老舗ブランド、フェラガモです。
とりわけ素晴らしいのがCG部分。上空を宇宙船が飛び交い、モデルたちも、人間離れしたクールで独特の存在感を放っています。
ほとんどハリウッドの第一級SF映画並みの完成度になっており、相当お金がかかっていそうです。
3位:バルマン
エール・フランスの全面的協力を得て、機体、滑走路、飛行機の格納庫や整備工場をモデルたちに歩かせたのがバルマンです。
とりたてて作り込んだストーリー性はないのに、ときおり挿入される映像が何やら意味深な物語を彷彿とさせます。また、数字をカウントするエッジの効いた音楽もぴったり。
フェラガモとはまた違うアプローチの、スタイリッシュな近未来感が秀逸です。
2位:クロエ
ルーヴル美術館やベルサイユ宮殿といった特別な場所を舞台にショーを繰り広げたメゾンもありますが、クロエが選んだのは、とりたててゴージャスでも奇をてらったものでもないパリの街角。
石畳と街燈、街路樹、カフェ、横断歩道を行き交う車など、そこにあるのはパリの夜のリアルな日常です。ステイホーム時代を逆手にとったかのようなアプローチも見事。
あくまでも日常の生活の中で着用してこそ意味があるというファッションの原点に立ち返ったかのようなコンセプトは実に力強く、逆に感動的です。
1位:ジバンシー
光と影が織りなすドラマチックな空間、水びたしのフロアの上、モデルたちが水を跳ね上げながら颯爽と歩く姿が最高にクールです。
映像表現が、コレクションのコンセプトと見事に合致しているのも、高く評価すべきでしょう。
ファッションショーでなく、映像表現という手法がとられるようになったことで、下手をすると自己満足の奇をてらっただけの不可解な映像になってしまい、肝心の洋服がよくわからないメゾンも少なくありません。そんな中、ジバンシーは新コレクションをみせるという本来の目的と、スタイリッシュな映像を見事に共存させている点でずば抜けています。
ファッション関係者でなくても楽しめる!
以上、完全に個人的好き嫌いでランキングしてみました。
異論のある方もいらっしゃるでしょうが、ファッション関係者でなくとも、ましてや映画好きなら十分楽しめる作品も少なくないことは確かです。
ブランドによって、出来不出来に差があるのは、まだこの手法が手探りの状態であるからでしょう。
ウィメンズの2021-22秋冬パリコレ・ミラノコレクションに限定せず、春夏やオートクチュール、メンズも含む過去1年間に発表された映像の中から選りすぐった、観るべき15のブランドについては、別の記事で紹介しています。
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