向田邦子が脚本を手掛け、1979年と80年の2シーズンに分けてNHKで放送された連続ドラマ『阿修羅のごとく』。
日本のドラマ史上屈指の傑作として知られ、その後、何度か映像化や芝居化がなされていますが、オリジナルドラマの出来を超えたリメイクはありません。
本記事では、パート1とパート2、合計全7話構成で放送されたNHKドラマ『阿修羅のごとく』に関し、主要登場人物と相関図、そして各話ごとのあらすじをネタバレありでご紹介したいと思います。
昭和ドラマ史に残る傑作『阿修羅のごとく』
ドラマ『阿修羅のごとく』は、1979年1月13日から27日まで、NHK「土曜ドラマ」枠の「向田邦子シリーズ」として全3話を放送。一年後、続編となるパート2が、1980年1月19日から2月9日まで、全4話で放送されました。
テレビドラマの名脚本家から直木賞作家へと転身するも、飛行機事故で不慮の死を遂げた向田邦子の文字通り代表作の一つです。
また、中心になって演出を手掛けたのは、NHKを代表する名演出家として知られた和田勉。
今日のドラマからほとんど失われてしまった、成熟した大人の関係を深いところまで描ききった素晴らしい脚本と名演出、最高の役者たちの演技が冴えわたる、昭和、いえ日本のドラマ史に燦然と輝く傑作の一つであることは間違いありません。
向田邦子の原作もおすすめ!
ドラマに感動された方は、書籍化されている向田邦子の原作もぜひ読まれることをおすすめします。毒とユーモアにあふれたセリフ、またドラマ鑑賞ではわからないト書きの深さをじっくり堪能できます。
巻末には故・和田勉の解説がついています。
いまのテレビドラマから、きれいさっぱりぬけおちているものは、何だろう? と、そのとき、向田邦子さんは言った。
引用:巻末解説;和田勉「おそろしいドラマの爆弾」から、向田邦子著『阿修羅のごとく』、文春文庫
物語を作り出したきっかけ、俳優選びや撮影時の秘話など、ワクワクするような舞台裏が演出家の目で解説されています。
主要登場人物と人物相関図
●長女:三田村綱子/加藤治子
夫に先立たれ、生け花の先生として生計を立てています。成人した息子・正樹は仙台におり一人暮らし。取引先でもある料亭「枡川」の主人・貞治と不倫関係にあります。
●次女:里見巻子/八千草薫
阿佐ヶ谷の一戸建てに暮らす専業主婦。宏男と洋子という中学生の一男一女がいます。会社員の夫・鷹男が秘書の赤木と浮気しているのではないかと疑っています。綱子いわく、四姉妹で一番怖いのは巻子だとか。
●三女:竹沢滝子/いしだあゆみ
図書館の司書で独身。かなりの堅物で、性格がまるで正反対の咲子とは、いつも喧嘩ばかりしています。父の素行調査を依頼した縁で、調査員の勝又と惹かれあうように……。
●四女:竹沢咲子/風吹ジュン
喫茶店のウェイトレスをしており、性格は自由奔放。ずけずけと言いたいことを言って、姉妹を怒らせます。新人王を狙う無名のボクサー・陣内と安アパートで同棲しています。
●父:竹沢恒太郎/佐分利信
国立(くにたち)で妻と2人暮らし。すでに定年退職し、週2回ほど知り合いの会社に出勤しているだけです。子持ちの土屋友子と8年前から不倫関係にあったことが判明したことから、物語が始まります。
●母:竹沢ふじ/大路三千緒
しっかり者の母。実は夫の浮気をしりつつ、それをおくびにも出しません。しかし、おおらかで優しい母・妻の顔とは別に、内なる闇を抱えていることが後に明らかに……。
●その他
・里見鷹男/緒形拳(パート1)/露口茂(パート2):巻子の夫
・勝又静雄/宇崎竜童:興信所の調査員、滝子と惹かれ合うように。
・陣内英光/深水三章:無名のボクサーで咲子の恋人
・枡川貞治/菅原謙次:料亭「桝川」の主人、綱子の不倫相手
・枡川豊子/三條美紀:料亭「桝川」の女主人で、貞治の妻
・土屋友子/八木昌子:恒太郎の不倫相手、小学4年の息子・省二がおり。
・赤木啓子/萩尾みどり:鷹男の会社の秘書、鷹男の浮気相手?
『阿修羅のごとく』パート1、全3話のネタバレあらすじ
第1話「女正月」
三女の滝子から招集がかかり、次女の巻子の家に集まった四姉妹。代官山で女性と男の子の3人でいる父・恒太郎を目撃し、興信所で調べた結果、何年も前から不倫関係にあることが判明したというのです。
母・ふじが不憫だと怒る滝子と、落ち着いた四女・咲子が喧嘩を始めるなど、現実を受け止めきれない四姉妹に、巻子の夫・鷹男は、絶対にふじの耳だけには入れるなと念を押すのでした。
その夜、時が解決してくれるという鷹男に、巻子は、意味深な表情で、この件の仲裁はあなたにまかせたいと依頼します。
翌日、長女・綱子の家を訪ねた巻子は、料亭「桝川」の主人・貞治との不倫現場に鉢合わせしてしまいます。綱子は、巻子も鷹男の浮気を疑っているから、そんなに腹を立てるのだと指摘するのでした。
滝子が、図書館にやってきた父に浮気を問いただす一方、鷹男は興信所の勝又に会い、間違いだったことにしてくれないかと依頼します。ただ、小学生の男の子・省二は恒太郎の実子ではないことが判明し、ひとまず安堵するのでした。
そんな中、ふじは夫の上着のポケットに子どものミニカーを見つけて、思わず襖に投げつけてしまいます。
咲子は、ボクサーの恋人を紹介するため、極秘に母をアパートに呼びます。恒太郎の浮気を告げ口するのではないかと心配になった綱子と巻子が駆け付けると、母が余計なことに悩まないよう心配事を与えたかったのだと……。追い返された2人に滝子も加わり、愛人の土屋友子を見に行きますが、声をかけることもできず……。
女5人が文楽の鑑賞をしている一方、恒太郎は鷹男にもうどうにもならないことだと落ち着いて答えるのでした。その夜、皆が実家に集まり、表向きなごやかに食卓を囲みますが、そんな中、鷹男は破れた襖の痕を発見します。
第2話「三度豆」
咲子が、新聞の投稿欄に父の浮気を憂う匿名主婦の投稿を発見します。巻子や綱子が疑われますが、2人とも身に覚えがなく……。
料亭「桝川」との契約が切れ、ひそかに不倫関係も終わらせる決意をする綱子。鷹男が、相談のため滝子と興信所の勝又を呼び出しますが、実は2人が互いに想いあっていることが判明します。一方、ボクシングの試合に負けた陣内から、会場を逃げ出したことを責められる咲子。
父が切腹する不吉な夢を見たこと、また新聞の投稿を母が見るのではないかと心配する巻子のよびかけで、四姉妹が実家に集まりますが、父は深夜になっても帰宅せず。巻子の頼みで、鷹男が土屋のアパートを訪ねると、子どもがケガをして、病院に駆けつけていたのでした。
鷹男の説明で、みなひとまず安心しますが、新聞社から贈られた粗品が実家にあったことで、投稿したのが母であったことが判明します。早朝、無言で帰宅した父を四姉妹が出迎えます。
第3話「虞美人草」
減量中の恋人につきあい、喫茶店で倒れた咲子。巻子に付き添われてアパートに戻ると、陣内は連れ込んだ女とラーメンを食べた後でした。
別れをすすめる巻子に反発した咲子は家を出ていき、一方、滝子と勝又も不器用ながら少しずつ距離を縮めていました。勝又は、きっかけが家族の素行調査だったのは嫌だと公園で証拠写真に火をつけて警察沙汰になってしまい、鷹男が呼び出されるはめに……。
咲子の行先を心配した巻子が綱子に電話すると、結局、綱子も貞治と別れられずにいました。
大阪出張に出た鷹男が、女をランチに誘う電話を間違えて自宅の巻子にしてしまいます。実家を訪ねた巻子が、母に夫の浮気の話をすると、「女は言ったら負け」だと……。ところが帰り道、ふらりと土屋友子のアパートの前までやってきた巻子は、呆然と立ち尽くす母の姿を発見。ふじは、巻子と目が合うとその場に倒れてしまいます。
その頃、恒太郎は友子から結婚すると別れを切り出され、また綱子も、家にやってきた「枡川」の女主人・豊子と修羅場になり……。
酔っぱらって病院にかけつけた父を、巻子は激しく罵倒します。意識不明のふじ、四姉妹、鷹男を前に、恒太郎はふられたと白状し、また咲子も妊娠していることを告げるのでした。
ふじは亡くなり、墓石の前に集った四姉妹、鷹男、勝又、陣内……。その後、一人家に呆然と佇む恒太郎の姿、そして皆で帰る道すがら、「女は阿修羅」だとつぶやく鷹男らの姿でパート1は終わります。
『阿修羅のごとく』パート2、全4話のネタバレあらすじ
第1話「花いくさ」
虚ろな気持ちで街をさまよい、スーパーで発作的に万引きしてしまう巻子。夫の浮気で苦しい気持ちを告白してなんとか見逃してもらいますが、帰宅すると、国立の実家でボヤ騒ぎがあったとの知らせが……。
いまだズルズルと貞治と関係を続けている綱子、勝又と不器用な恋愛をしている滝子、陣内がチャンピョンとなり、赤ん坊、義母とともに裕福な生活をしている咲子、みなが実家にかけつけます。落ちぶれた父の生活を見て、今後のことを相談します。
翌朝、会議だと父が早く出ていき、四姉妹で母の形見分けを始めます。タンスの奥に嫁入り道具の春画を見つけ、母のまだ知らぬ女の顔に気づくのでした。
帰宅し、母の着物をまとった綱子は思わず貞治に電話してしまい、また巻子は、鷹男の浮気相手だと疑う秘書の赤木と娘が親しくしていることに、不快感を抑えきれないまま、鷹男から求められ……、一方、滝子も家で一人濃い化粧をしているところ、突然勝又の訪問を受け……。
巻子は父と並んで歩きながら、気が置けない下宿人として勝又を家に置いたらどうかと提案します。なかなか決断できない滝子のためでもあると……。そのとき、結婚した土屋友子と小学生の省二が歩いてくるのに出くわしてしまうのでした。
第2話「裏鬼門」
勝又が、国立の家に引っ越してきます。引っ越し祝いに咲子がやってきますが、成金の生活を見せびらかし、また煮え切らない滝子を非難したことで、またもや大喧嘩になってしまいます。その後、咲子は巻子にもきつい言葉を放ち、戒められてしまうのでした。
綱子が、久しぶりに仙台から帰省してきた息子・正樹が彼女連れで落胆を隠せず、一方、恒太郎、勝又、滝子3人で囲む鍋も、妙にぎこちなく……。
巻子は綱子を訪ねますが、貞治がいて居留守を使われ、帰ろうとしたところで「桝川」の豊子とばったり出くわします。豊子とテーブルをはさんだ巻子は、自分の夫も、父も浮気したことを告白し、奥深くで気持ちが通じ合うのでした。
鷹男と巻子が綱子に再婚をすすめているところ、滝子も咲子の悪口を言いにやってきます。滝子は鷹男から、NOが多すぎるから幸せを取り逃がすのだと言われてしまい……。
しかし咲子も派手な生活をするのは、結婚を反対されたあげく、姉妹たちから見下されていた夫のためであり、また、姑が新興宗教にのめり込み、陣内自身の体にも異変が起こりつつあることなど、決して幸せなだけではありませんでした。
勝又は、恒太郎が小学生の省二と今もときおり会っていることに気づくと同時に、浮気調査をしたのは自分だと正直に白状します。滝子は、里見家を訪れ、ようやく結婚する意志を伝えますが、咲子だけは式に呼びたくないと言い、鷹男と巻子に叱られてしまうのでした。
迎えた結婚式、やはり陣内と咲子は派手に騒ぎを起こし、滝子を怒らせることに……。しかし、式のさなか、陣内が倒れてしまいます。
第3話「じゃらん」
滝子、巻子が陣内の見舞いに行くと、すでに退院してベッドはもぬけの殻。一方、母の絶え間ない念仏についにぶち切れて荒れる陣内の様子から、咲子は視力を失いつつあることに気づいてしまうのでした。
しかし、陣内がもはや再起不能ではないのかと心配する巻子に、咲子は大丈夫だと明るくふるまい……。
恒太郎は一人でひそかに咲子に会いに行きますが、虚勢を張る咲子に追い返されてしまいます。また、綱子から、巻子が持ってきた縁談のことを相談され、会ってみるべきだと助言します。
綱子のお見合いに立ち会うため支度をしていた巻子でしたが、鷹男から電話があり、急な仕事で宿に泊まり込みになったと……。不安に苛まれ、宿の前まで行ってしまった巻子は、まるであの日の母と自分のように、その姿を娘の洋子に見られてしまうのでした。
一方、宿の一室にこもって忙しく仕事している鷹男、赤木ら数人の部下たち。鷹男からもう帰るようすすめられた赤木が耳打ちします。数時間抜け出して行きたいところがあるのは鷹男の方ではないのか、なのに自分が浮気相手だと疑われ、隠れ蓑に使われているみたいだと……。
見合いの席で、能楽を観ていた綱子は、貞治に会いたくなり、いたたれまれない気持ちで席を立ってしまいます。無理に電話で呼び出された貞治も、もう妻と別れると言い出すのですが……。巻子がかけつけ、見合いをすっぽかしたことを怒りますが、綱子から、鷹男に浮気されたいら立ちから八つ当たりするなと言われてしまい……。
その頃、滝子のもとに、陣内が倒れたという知らせが入ります。意識不明の植物人間状態となった陣内の横に裸で寄り添う咲子を、恒太郎が病室の前で守っていました。
第4話「お多福」
巻子は、恒太郎が土屋友子と再び会っているのではないかと疑い、勝又に相談。勝又から、子どもの省二からたびたび電話があり、勉強を教えるため会っていると教えられます。
陣内を見舞った綱子、巻子、滝子の三人に、咲子は、まだ希望を捨てていないと明るくふるまうのでした。しかし、病院からの帰路、呆然と歩きながら、優しい言葉をかけてきた見知らぬ男・宅間の誘いにふらふらと乗り、身を任せてしまいます。
咲子の身の上を調べた宅間が、脅迫して金銭を要求してきます。かたや、綱子と貞治は、ガス漏れ中毒で病院に運ばれることに……。貞治は、足の裏に「へのへのもへじ」と書かれていたのも忘れて、帰宅してしまいます。それは、咲子が陣内の足の裏に書いたおまじないを綱子がまねたものでした。
豊子は、貞治の足の裏に気づき、その仕返しとして、綱子の生け花教室の看板に同じ悪戯書きをして帰ってくるのでした。
咲子は電話で、脅迫されている事実を巻子ではなく、間違って滝子に話してしまいます。滝子が駆け付け、宅間を病室に呼び出すと、泣きながらも強い言葉で宅間を責めて咲子をかばい、追い払うことに成功するのでした。
一方、洋子が万引きをし、呼び出された巻子は、店主から家族に問題があるのではないのかと言われてしまいます。帰宅すると、鷹男の秘書・赤木が待っていました。赤木は、自分は浮気相手ではないし、このたび結婚するので仲人を依頼したいと……。
巻子は、帰宅した鷹男に、ついに不信感のすべてをぶちまけます。それでも鷹男は、そんな女などいないと、断固とした口調で言い切るのでした。
赤木の結婚式で仲人を務めている巻子と鷹男、動かぬ陣内を家に引き取り、看病と子育てを両立させている咲子、生け花教室の先生として働きつつもまだ貞治と一緒の綱子、勝又と仲睦まじい滝子、そして、省二とはもう会えないことになった恒太郎の寂しい顔……。
仲人の巻子はおだやかな顔で隣の鷹男の耳元にささやきます。まだ信じていないんだと……。
『阿修羅のごとく』、その後のリメイク作品
『阿修羅のごとく』は、本ドラマののち、映画化が一度、舞台化が三度なされています。
主要キャストは以下の通りです。
【2003年:森田芳光監督による映画】
三田村綱子/大竹しのぶ
里見巻子/黒木瞳
竹沢滝子/深津絵里
竹沢咲子/深田恭子
竹沢恒太郎/仲代達矢
竹沢ふじ/八千草薫
枡川豊子/桃井かおり
ナレーション/加藤治子
【2004年:舞台】
三田村綱子/山本陽子
里見巻子/中田喜子
竹沢滝子/秋本奈緒美・森口博子
竹沢咲子/藤谷美紀・細川ふみえ
竹沢ふじ/南田洋子
竹沢恒太郎/長門裕之
【2013年:舞台】
三田村綱子/浅野温子
里見巻子/荻野目慶子
竹沢滝子/高岡早紀
竹沢咲子/奥菜恵
竹沢ふじ/加賀まりこ
竹沢恒太郎/林隆三
【2022年:舞台】
三田村綱子/小泉今日子
里見巻子/小林聡美
竹沢滝子/安藤玉恵
竹沢咲子/夏帆
連続ドラマと映画・芝居の違いがあるとは言え、残念ながら、オリジナルドラマを超える作品はありません。
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