アカデミー主演女優賞に輝いた『ローマの休日』に続き、オードリー・ヘプバーンがヒロインを演じた1954年公開のロマンティック・コメディ『麗しのサブリナ』。
人気絶頂期のスター3人の夢のような三角関係が話題をよんだほか、「サブリナ」の名がつけられたヘアスタイルやファッションの大流行など、映画を超えた社会現象をも生み出しました。
ここでは、あらすじと撮影裏話・トリビアの紹介に続き、解説・感想を交えレビューしたいと思います。
『麗しのサブリナ』あらすじとキャスト
サミュエル・テイラーの戯曲を名匠ビリー・ワイルダーが映画化。オードリー・ヘプバーンの相手役をハンフリー・ボガート、ウィリアム・ホールデンという二大スターが演じています。
第27回アカデミー賞では、ワイルダーの監督賞、ヘプバーンの主演女優賞など複数のノミネートを果たし、イーディス・ヘッドが衣装デザイン賞を受賞しました。
■あらすじ
大富豪のララビー邸で働く住み込み運転手の一人娘がサブリナです。御曹司兄弟の弟デイビッドに叶わぬ恋心を抱き続けていましたが、デイビッドはバツ2で筋金入りのプレイボーイ。娘のことを心配する真面目な運転手の父は、彼を忘れさせようと、サブリナをパリの料理学校に送り出します。
そして2年後、見違えるような美女となってサブリナが帰国します。
その洗練された姿と佇まいにデイビッドは一目ぼれしますが、仕事人間の兄ライナスは、弟に使用人の娘とではなく、ビジネス相手の令嬢と政略結婚させるため、二人の仲を引き裂こうと画策。しかし、そのうちライナスとサブリナが惹かれあってしまいます。
■キャスト
・サブリナ・フェアチャイルド/オードリー・ヘプバーン
・ライナス・ララビー/ハンフリー・ボガート
・デイビッド・ララビー/ウィリアム・ホールデン
1951年の『アフリカの女王』で主演男優賞を受賞したボガート、1953年の『第十七捕虜収容所』で主演男優賞に輝いたホールデン、同じ1953年の『ローマの休日』で主演女優賞を受賞したヘプバーンと、オスカー受賞組3人の夢の共演が、大きな話題になりました。
ファッションやキャストにまつわる撮影裏話6選
①ライナス役の第一候補はケーリー・グラントだった!
当初、ライナス役はケーリー・グラントが演じるはずでした。ところが、撮影直前になってグラントが辞退。「傘を持つような男を演じたくない」と言ったとか言わなかったとか……。
突然の降板だったため、ビリー・ワイルダーは撮影と同時進行で脚本のリライトに追われることになりました。
ケーリー・グラントはその後、1963年公開の映画『シャレード』でオードリー・ヘップバーンと共演しています。
②やる気のなかったハンフリー・ボガート
ケーリー・グラントの降板を受け、急遽キャスティングされたハンフリー・ボガードもあまりやる気はなく、現場では終始不機嫌だったと言われています。ビリー・ワイルダー監督の第一希望ではなかったことにプライドを傷つけられたことや、共演者たちとの不仲、また自分はライナス役に合っていないと考えていたようです。
実際、ボガートはミスキャストであり、ホールデンがライナスを演じるべきだったという批評家も少なくありませんでした。
後年、ボガートは、撮影中の態度の悪さとワイルダー監督に対するひどい言動を後悔していると述べています。
③3人の舞台裏での関係
ハンフリー・ボガートとウィリアム・ホールデンは、撮影中ずっと互いを嫌い合っていました。ボガートは、オードリー・ヘプバーンに対しても不満を持っており、自身の妻ローレン・バコールのキャスティングを望んでいたといいます。
かたや、ホールデンとヘプバーンは、プライベートでも親しくなり、深い仲になりました。関係が破綻した理由は、ホールデンがすでにパイプカットしており、子どもを持てないことをヘップバーンが知ったからだとも言われています。二人は1964年の映画『パリで一緒に』で再共演しています。
④3人の年齢差とギャラ
3人の恋愛模様が描かれますが、撮影が行われていた1953年秋当時、ヘップバーンは24歳、ホールデンは35歳、ボガートは53歳でした。
つまりヘプバーンとボガートは親子ほど年齢差があったことになります。
ちなみにギャラは、ボガートが30万ドル、ホールデンがその半分の15万ドル、ヘップバーンはわずか1万5000ドルでした。
⑤ファッションにまつわる実話
オードリー・ヘプバーンとジバンシーの生涯続く蜜月が始まった、その最初が作品が本作です。ヘプバーンはもともとバレンシアガを希望していたと言われていますが、バレンシアガ側から断られたのです。
ヘプバーン個人が購入した私物だったという理由で、ジバンシーの名前はクレジットされておらず、衣装デザイナーとしてクレジットされていたイーディス・ヘッドがアカデミー衣装デザイン賞を受賞しました。
ヘッドが受賞を辞退しなかったことに対し、一部で非難が巻き起こります。しかし、ヘッドは、ジバンシーのアイデアに基づいて重要なデザインをしたのは自分だと主張して反論しました。後年、ジバンシーが、それは事実ではないとコメントしています。
パリに行く前の水玉のワンピースやチェックのシャツなどはイーディス・ヘッドによるもの。イーディス・ヘッドは『ローマの休日』でもアカデミー衣装デザイン賞を受賞しています。
⑥撮影ロケ地はどこ?
物語の主な舞台となる豪華なララビー邸は、ニューヨークのロングアイランド、グレンコーブにあるという設定です。
一部で、ロングアイランドにあるパラマウント社長の邸宅で撮影されたと伝わっていますが、事実は異なります。ロサンゼルスのビバリーヒルズにあった大富豪ジョージ・ルイスの邸宅で撮影されました。1960年代に改装され、当時の建物は現存していません。
パリから戻ったサブリナが、見違えるような姿で立つグレンコーブ駅は、今も当時の雰囲気をそのまま残しています。
マンハッタンにあるララビー社のビルは、ファサードが若干変わりましたが、建物はウォール街のブロード通り30番地に今も現存しています。
『麗しのサブリナ』の名言、解説レビュー
大富豪の御曹司兄弟と、使用人である運転手の一人娘サブリナの恋を描いたロマンティック・コメディ『麗しのサブリナ』。
サブリナをオードリー・ヘプバーン、兄のライナスをハンフリー・ボガート、弟のデイビッドをウィリアム・ホールデンという、今は亡き3人の美しきトライアングルである。
サブリナはデイビッドのことを想い続けてきたが、所詮、叶わぬ恋。
失意の中、パリに渡り、2年後見違えるような美しい女性となって帰ってくる。
結果、見事にデイビッドのハートを射止めるが、次第にライナスに魅かれるようになってしまう。
身分違いの恋と三角関係という古風なラブストーリーであり、流行にもなったオードリーの洗練されたファッションの方が内容よりも有名ではあるが、本作の魅力は、なんといってもウィットの効いたセリフの数々にある。
例えば、運転手の父がサブリナを戒めるセリフ。
「人生はリムジンと同じ。それぞれ座る場所がある。前の席と後ろの席、そして、真ん中にはガラスの仕切りがある」
軽快な、無駄のないセリフの連続は、監督・脚本ビリー・ワイルダーの真骨頂だ。
身分違いと言ってもさしたる深刻さはなく、おまけに絵に描いたようなハッピーエンドは完全におとぎ話で、今観るとさすがに少々白けてしまうかもしれない。
それでも、観終った後には、ほのかな希望がある。
ある種のノスタルジーと呼んでいいものかもしれない。
良識ある大人たちによる、美しき良き時代の物語――。
ハリソン・フォードによる現代版リメイクが失敗に終わったのは、すでにそんなものは現代にはもう存在しないからである。
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