『地獄の黙示録』通常版/ファイナルカット/完全版の違い解説

地獄の黙示録・比較 映画

1979年に公開された、フランシス・フォード・コッポラ監督、不動の代表作の一つ『地獄の黙示録』。

2001年には、53分の未公開シーンが追加された『地獄の黙示録 特別完全版』、さらに2019年には、公開40周年記念として『地獄の黙示録 ファイナル・カット』が公開されるなど、映画史に残る問題作として、今なお世界中に熱狂的なファンが多くいます。

本記事では、すでに同作を鑑賞済みであることを前提に、3つのバージョンの違いについて、詳しく解説したいと思います。

※ネタバレを含みます。

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巨匠フランシス・フォード・コッポラがメガホンをとり、1979年に公開された戦争巨編『地獄の黙示録』。

イギリス人作家のジョゼフ・コンラッドが1899年に発表した小説『闇の奥』を主な原作に、19世紀のコンゴではなく1969年のベトナムに舞台を置き換え、戦争の狂気と人間の闇を壮大なスケールで描き上げました。

カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドール、米アカデミー賞でも8部門ノミネートの2部門受賞、ゴールデングローブ賞の監督賞・助演男優賞受賞など、あまりの衝撃ゆえにさまざまな物議と賛否を巻き起こしつつも、映画史に残る作品であることは間違いありません。

フランシス・フォード・コッポラとは、1972年の『ゴッドファーザー』に続くコンビとなったマーロン・ブランドはじめ、マーティン・シーン、デニス・ホッパー、ロバート・デュヴァルらキャスト陣の素晴らしい演技も見どころの一つです。

■長さの違う3つのバージョンについて

1979年に公開された「通常版」あるいは「劇場公開版」とも言われる153分のバージョンに対し、2001年には、53分の未公開シーンを追加して再編集した202分の『地獄の黙示録 特別完全版(原題:Apocalypse Now Redux)』が公開されました。

さらに、2019年には、公開40周年を記念し、トライベッカ映画祭において「特別完全版」から20分カットした、182分からなる『地獄の黙示録 ファイナル・カット(原題:Apocalypse Now Final Cut)』が公開され、再び大きな話題をよびました。

「通常版」にはない未公開シーンは、ざっくり大きく分けて以下の4つです。

① キルゴア中佐とサーフィンにまつわるシーン→「ファイナル・カット」「完全版」両方にあり
② 再会したプレイメイトたちと情交するシーン
→「完全版」のみ
③ フランス人のプランテーション入植者たちと交流するシーン
→「ファイナル・カット」「完全版」両方にあり
④ カーツと監禁されたウィラードのシーン
→「完全版」のみ

ただ、他にも細かな再編集がいくつか見られます。上記の4シークエンス含め、異なる点を詳しく時系列に明記してみます。



「特別完全版」に新たに追加、再編集されたのは以下のシーン。

●キルゴア中佐が登場する前にあった、ランスがローリングストーンズの「サティスファクション」を流して水上スキーをするシーンは、「特別完全版」ではプレイボーイの慰問ショーを見た後に移されています。

●「特別完全版」では、キルゴア中佐が着陸したヘリコプターから降り立ち、部下に「ナパーム弾で林を焼き尽くせ」と指令を出すシーンが、新たに追加されています。

●さらにキルゴアが、激しい戦闘の最中だというのに、サーフィンをしようと準備し、波の状態を心配をしたりするシーンも追加。そんなキルゴアの狂人ぶりに呆れたウィラードらが、キルゴアのサーフボードを盗んで逃げるシーン、キルゴアがヘリコプターに乗ってしつこくサーフボードを探しにやってくるシーンも追加されました。

●プレイボーイの慰問ショーをみた翌日、ランスやシェフ、クリーンらが船上で興奮さめやらぬ会話を交わすシーン。(この後、水上スキーのシーンがあります)

●川辺のキャンプ地に立ち寄ると、プレイメイトたちを乗せたヘリコプターが台風で不時着しており、燃料を与える引き換えに、シェフやランスらがそれぞれプレイメイトたちとセックスするシーン。

●フランス人入植者たちが暮らすプランテーション農園に立ち寄るシーン。そこで、死んだクリーンを埋葬し、リーダーであるユベールに招かれた食事の席で政治の話をします。その後、ウィラードがフランス人女性と肉体関係を持つことがそれとなく示唆されます。

●カーツの王国で、密室に監禁されたウィラードの姿を、カーツと子どもたちが隙間から覗くシーン。カーツはその後、「タイム」のベトナムに関する記事をウィラードに読み聞かせ、でたらめだと言います。

●カーツを殺害した後、カーツの「爆弾を投下して王国を破壊しろ」と書かれたメモを読んだウィラードが、そのメモを前に座り込む短い数秒を追加。

「特別完全版」から削除、再編集されたのは以下のシーン。

●燃料と引き換えに、プレイメイトたちと熱い時間を過ごす10分あまりのシーンは、再びすべて削除。

●フランス人たちとの食事の場の会話は再編集されてやや短くなり、「ベトコンはアメリカが作った」というセリフは削除されています。

●カーツがウィラードに「タイム」の記事を読み聞かせる5分あまりのシーンは、再びすべて削除。

●カーツを殺害した後、そのメモを読んだウィラードが、数秒座り込むシーンも削除。



以上、長さの異なる3つのバージョンの違いについて、詳しく説明しましたが、それとは別に、映画のクレジットに繋がるエンディングには、異なる2つのバージョンがあります。

現在、市販DVDや配信サイトなどで視聴できる3つのバージョンは、すべて、ウィラードとランスが王国を去る姿に続き、コピーライトの文字が出るだけで唐突に終わります。ところが、当初、1979年の劇場公開版では、王国が空爆されるシーンがエンドクレジットに流れているもの(35ミリ版)と、それがないもの(70ミリ版)の2種類があったのです。

コッポラは、空爆シーンを無くした理由として、それを見た観客が、爆破をウィラードの指示によるものだと解釈したためだと述べています。そもそも、最後の爆破シーンは、エンドクレジットの背景用に流したイメージ映像に過ぎず、ストーリー展開の一部ではなかったことを、DVDのオーディオ・コメンタリーの中で述べています。

3つのバージョンのうち、どれがベストかについては、おおむね「ファイナル・カット」を一番に挙げる人が多いように思います。フランシス・フォード・コッポラ自身も、「ファイナル・カット」こそ、自身が最も満足する形だと述べています。

個人的には、オリジナルの「通常版」です。何より寡黙な語り口の方が、観客にさまざまな考察の余地があること。追加された多くのシーンは、政治や思想にやたら饒舌すぎる気がします。とくにフランス人たちと、政治について会話するシーンはあまりに説明的であり、ましてやウィラードとフランス人女性の関係は、不要だと感じました。

いずれにしても、『地獄の黙示録』は観客に対し、何度も観直し、各々に考察を迫る映画であることは間違いありません。

世界中で有識者による複数の考察本、解明本が出版されているのも、名作であることの証でしょう。日本においては、立花隆の「解読『地獄の黙示録』」が必読です。

立花隆は冒頭で以下の通り述べています。

この映画は、内容の深さにおいて、はじめて世界文学に匹敵するレベルで作られた映画である。(中略)単なるエンタテインメント映画ではない。文学的な批評の対象になる映画である。

引用:立花隆著「解読『地獄の黙示録』」文春文庫刊

また、ぜひ視聴をおすすめしたいのは、1991年に公開されたドキュメンタリー映画『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』。撮影に実際に同行していたコッポラの妻エレノアが撮影したメイキングやインタビューなどによって構成され、映画の舞台裏を明かしています。

さらに、配信では観れないコッポラへのインタビューなど100分を超える特典映像を収録した『地獄の黙示録 ファイナル・カット 4K Ultra HD Blu-ray』は、考察の資料のみならず保存版としてもおすすめです。

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