トニー賞を受賞したブロードウェイの舞台劇を、2014年、HBOがテレビ映画として製作したのが『ノーマル・ハート』です。
こちらも見事エミー賞作品賞に輝くなど非常に高い評価を得た傑作であるにもかかわらず、劇場未公開だったこともあって、日本ではあまり広く知られていません。
本記事では、そんなゲイ映画『ノーマル・ハート』について、あらすじやキャスト、さらに原作や裏話など作品の見どころまでくわしくご紹介したいと思います。
映画『ノーマル・ハート』を今改めてオススメする理由
1.話題の映画『ボーイズ・イン・ザ・バンド』と多くの共通点
2020年9月、Netflixで配信され、大きな話題をよんでいる映画『ボーイズ・イン・ザ・バンド』。日本では『真夜中のパーティー』のタイトルで広く知られた舞台劇の2度目の映画化です。
『ノーマル・ハート』と『ボーイズ・イン・ザ・バンド』は、ともにゲイを題材にした傑作舞台劇の映像化作品という点で共通しています。
しかし、それだけではありません。
映画『ノーマル・ハート』の監督を務めたライアン・マーフィーが『ボーイズ・イン・ザ・バンド』をプロデュース。また、『ボーイズ・イン・ザ・バンド』の監督を務めたジョー・マンテロのほか、ジム・パーソンズ、マット・ボマーら複数の俳優たちが『ノーマル・ハート』に揃って出演しているなど、キャスト・スタッフにも共通するところの多い2作なのです。
両方の作品をあわせて鑑賞してほしい理由がここにあります。
2.新型コロナウルスとエイズ
『ノーマル・ハート』は、エイズ(AIDS)の正体がまだ明らかではなかった1980年代初頭が舞台です。未知のウイルスとの闘いとそれによって露呈するさまざまな社会問題を描いています。
突然、全世界を襲った新型コロナウイルスによる大混乱。AIDSに直面した当時の人々の姿から、今の私たちも何かを学ぶことができるのではないでしょうか?
『ノーマル・ハート』作品紹介
『ノーマル・ハート』はまず1985年、オフ・ブロードウェイで初演され、好評を博します。2004年、ロンドン、ロサンゼルス、そして再びオフ・ブロードウェイでのリバイバル上演を経て、2011年、ついにブロードウェイで幕が開き、見事トニー賞受賞に至りました。
1980年代初頭のHIV/AIDS黎明期、ゲイたちの置かれていた状況、未知の病をどのように受け止め、立ち向かっていったかが描かれると同時に、恋愛や家族との関係なども随所に織り込まれ、感動的な物語となっています。
あらすじ(ネタバレあり)
1981年のニューヨーク。ゲイの間で、謎のガンにかかり相次いで死に至るケースが多発。
突然友人を亡くしたライターのネッドは、治療に取り組む女性医師エマに説得され、ゲイたちに事態の深刻さを訴えますが、まだ誰も耳を傾けようとはせず……。
そんな中、新聞記者のフェリックスと出会い、二人はすぐ恋に落ちます。
ネッドは、法律事務所を経営する兄の力を借りて「GMHC(ゲイメンズ・ヘルス・クライシス)」を設立し、患者のサポートおよび政府への働きかけに取り組みます。しかし、ゲイだけのガンと考える社会の風潮は消えず、市も政府も放置状態。
さらに、独りよがりに突っ走るネッドのやり方はGMHCの仲間たちや兄との間に摩擦を生み、次第に孤立していくことに……。そればかりか、最愛のフェリックスまでもがAIDSを発症してしまいます。
その結果、ゲイを隠すニューヨーク市長を公然と糾弾するなど、ネッドの運動はさらに過激化していくのでした。
時が過ぎて1983年。
以下、結末ネタバレ。
状況はさらに深刻化し、大勢の犠牲者が……。ネッドの献身的な介護もむなしく、フェリックスの病状も悪化するばかり。
エマが、政府に研究資金支援を訴えるも、まともな協力は得られず、またホワイトハウスで陳情したネッドも、冷たくあしらわれてしまいます。
GMHCのメンバーたちにも疲労の色がたちこめ、ついに熱くなり過ぎるネッドは組織を除籍されることに……。一方、死期を悟ったフェリックスは、ネッドと絶縁状態にあった兄とひそかに会い、遺言状の作成を依頼していました。
やがて、フェリックスはネッドに看取られながら息絶えます。「闘い続けろ」との言葉を遺して……。
1984年。
本来ならフェリックスと同行するはずだった、母校イエール大学のゲイ・パーティーに一人出席しているネッドの孤独な姿……。さらに、ブルースら、GMHCのメンバーからも犠牲者が出たことが分かり……。
その後も遅々として進まなかった政府の対応と今日までの膨大なAIDS死者数がエンドクレジットに流れて映画は幕を閉じます。
主要登場人物とキャスト
1.ネッド・ウィークス/マーク・ラファロ
逃げずに闘うことこそが大切だという信念を貫き、精力的に行動する本作の主人公がネッド・ウィークスです。かつてはブルースのことが好きでしたが、フェリックスと出会い、恋に落ちます。
演じているのはマーク・ラファロ。『キッズ・オールライト』『スポットライト 世紀のスクープ』『はじまりのうた』『アベンジャーズ』など、今やひっぱりだこの人気を誇る実力派俳優です。
ラファロ自身はゲイではなく、ネッド役はゲイの俳優が演じるべきだという理由から当初は難色を示していましたが、説得の末、出演に至りました。
2.フェリックス/マット・ボマー
ニューヨークタイムズ紙で、エンタメ担当の記者をしているのがフェリックスです。ゲイの記者だと聞きつけて、協力を依頼してきたネッドと出会いました。
マット・ボマーは、テレビドラマを中心に活躍しつつ、2013年の映画『スーパーマン:アンバウンド』に主演し、世界的な人気スターとなりました。
大変な減量によって、AIDSで衰えていくフェリックスを見事に演じ切り、ゴールデングローブ賞最優秀助演男優賞を受賞しています。
実生活もゲイであり、2011年に同性婚を挙げています。
3.エマ/ジュリア・ロバーツ
幼い頃ポリオを患ったため、車いす生活の女医がエマです。AIDS治療に真摯に取り組んでいますが、冷静沈着な医師の姿とは裏腹に、心の奥で深い孤独を抱えているのが見て取れます。
演じているのはジュリア・ロバーツ。夫のダニエル・モダーが本作のフォトグラフィック・ディレクターを務めています。
ちなみに2011年の舞台版『ノーマル・ハート』でエマを演じてトニー賞を受賞したのはエレン・バーキンです。
4.ベン/アルフレッド・モリーナ
法律事務所を経営する裕福なネッドの兄がベンです。兄としてのサポートを惜しみませんが、完全にネッドの生き方を受け入れているとはいえず、ある日絶縁します。
イギリス出身の俳優アルフレッド・モリーナは、数々のヒット作に出演している名バイプレーヤーです。出演作には『フリーダ』『スパイダーマン2』『ダ・ヴィンチ・コード』などがあります。2014年の映画『人生は小説よりも奇なり』では、ジョン・リスゴーと中年ゲイカップルを演じました。
ベン役には当初、アレック・ボールドウィンが予定されていましたが、実現しませんでした。
5.ブルース/テイラー・キッチュ
GMHCの会長に選ばれるのがブルースです。恋多き男であり、恋人のクレイグがAIDSで命を落としたあとすぐ、今度はモデルのアルバートと恋に落ちます。
ブルースを演じたテイラー・キッチュはカナダ人俳優です。2009年の映画『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』におけるガンビッド役に続き、2012年の映画『バトルシップ』と『ジョン・カーター』両大作で主人公を演じ、一躍人気スターとなりました。
6.トミー/ジム・パーソンズ
GMHCのメンバーの一人で、みな激しくぶつかり合う中、一人冷静で優しい性格の男がトミーです。密かにネッドのことが好きなのではないか、と思わせるそぶりもあります。
トミー役のジム・パーソンズは、大ヒットテレビドラマ『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』のシェルドン役で大ブレイクを果たした俳優です。
最近は、Netflixドラマ『ハリウッド』や『ボーイズ・オン・ザ・バンド』など、ライアン・マーフィー作品に連続して出演しています。
2011年の舞台版『ノーマル・ハート』でも同じ役を演じました。
7.ミッキー/ジョー・マンテロ
GMHCのメンバーの一人で、分別のある落ち着いた男がミッキーです。しかし、追い詰められてついに爆発する場面もあります。
ジョー・マンテロ(写真左)は俳優と監督、二つの顔を合わせ持つブロードウェイを代表する才能です。監督作にはミュージカル『ウィケッド』や『テイク・ミー・アウト』、Netflix映画『ボーイズ・オン・ザ・バンド』など。俳優としては舞台『エンジェルス・イン・アメリカ』やNetflixドラマ『ハリウッド』などがあります。
舞台版『ノーマル・ハート』ではミッキーではなくネッドを演じました。
8.クレイグ/ジョナサン・グロフ
劇中、最初のAIDS犠牲者となるのがクレイグです。ブルースの恋人であり、ネッドの友人でもあります。
演じたジョナサン・グロフは、若手ながらも舞台、映画、テレビで多数の出演作がある実力派俳優です。『glee/グリー』やゲイドラマ『ルッキング』、また映画『アナと雪の女王』のクリストフの声優として、日本でも人気があります。
9.アルバート/フィン・ウィットロック
クレイグを亡くしたブルースが次に恋に落ちるのがファッションモデルのアルバートです。AIDSを発症していますが、必死にそれを隠して仕事をしています。
フィン・ウィットロックは、本作のアルバート役が高い評価を受け、『アメリカン・ホラー・ストーリー』の数シーズンや『ラチェッド』など、ライアン・マーフィーの作品に連続してキャスティングされています。
監督・プロデューサー
本作のエグゼクティブ・プロデューサーには、ブラッド・ピット、ネッドを演じたマーク・ラファロも名を連ねています。
監督を務めたライアン・マーフィーについては、下記の記事に詳しくまとめてあります。
原作者ラリー・クレイマーと実話
原作となっている戯曲は、ラリー・クレイマーの半自叙伝です。
主人公のネッドのモデルはラリー・クレイマー自身、ブルースはGMHCの初代会長ポール・ポファム、トミーは同組織のロジャー・マクファーレン、エマはリンダ・ローベンシュタイン医師、フェリックスはニューヨークタイムズ紙スタイル担当記者だったジョン・デュカがモデルだと言われていますが、全員故人です。
劇中ネッドは、ニューヨーク市長を糾弾しますが、実際、ラリー・クレイマーは、当時のエド・コッチ市長を激しく批判していました。
ラリー・クレイマーは2020年5月27日に84歳で他界。『ボーイズ・イン・ザ・バンド』の原作者マート・クロウリーも、2020年3月7日、84歳で他界しており、その点でも両作品は奇妙に一致しています。
映画『ノーマル・ハート』の配信は?
長らく日本では観ることのできなかった映画『ノーマル・ハート』は、2022年3月現在、Amazonプライムビデオで有料配信されています!
また、U-NEXTでは、独占見放題作品の中にラインアップされており、無料トライアル期間などもあっておすすめです。
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