数々の話題作・ヒット作を送り出しているアメリカを代表するプロデューサーのライアン・マーフィーが、ブラッド・ファルチャックと組み、2011年にスタートさせた世界的人気シリーズ『アメリカン・ホラー・ストーリー』。
全米大手ケーブルネットワークFXにおいて、2022年10月から11月に放送されたシーズン11にあたるのが『アメリカン・ホラー・ストーリー:NYC』です。
日本ではDisney+で配信。
80年代のニューヨーク、ゲイ・コミュニティを主な舞台にした本シーズンについて、12人の主要登場人物とキャスト、そして全10話のあらすじを完全ネタバレありでくわしく解説したいと思います。
『アメリカン・ホラー・ストーリー』シーズン11「NYC」について
『アメリカン・ホラー・ストーリー』は、シーズンごとに異なるダーク・ストーリーが繰り広げられつつも、同じキャストが違う役柄を演じていくというスタイリッシュかつユニークな展開が特徴のアンソロジー・シリーズです。
全10話から構成されるシーズン11「NYC」の舞台は、タイトル通り、1980年代のニューヨーク。
80年代は、オープンリー・ゲイであるライアン・マーフィーが特に好んでたびたび取り上げている時代であり、例えば同じ『アメリカン・ホラー・ストーリー』のシーズン9「1984」、ドラマ『POSE/ポーズ』、映画『ノーマル・ハート』などがそれにあたります。(特に後者の2作品はまさに80年代のニューヨーク、LGBTQコミュニティとAIDS禍がテーマとなっており、あわせて視聴したいところです。)
本作品の物語そのものはフィクションですが、やはりAIDSウイルスの蔓延、当時から頻発していたゲイを狙った連続殺人事件という2つの事実が、重要なテーマとなっています。
※全シーズン10については下記の記事をご覧ください。
12人の主要登場人物とキャスト紹介
ライアン・マーフィー作品の常として、ゲイの登場人物は、実生活でもゲイの俳優たちが演じています。
また、多くのキャストが本シリーズ含むマーフィー作品の常連俳優であり、私生活なども簡単にご紹介します。
①パトリック・リード(演:ラッセル・トーヴィー)
本作の主人公ともいえるNY市警の刑事がパトリックです。最近になってゲイであることに気づいて恋人ジーノと同棲しており、妻のバーバラとは離婚調停中です。職場ではゲイであること隠す秘密主義で、何やら闇を抱えています。
イギリス人俳優のラッセル・トーヴィーは、マーフィー作品初の抜擢です。その他の代表的な出演作には、HBOのゲイドラマ『ルッキング』、BBCドラマ『SHERLOCK』などがあります。元ラグビー選手のスティーヴ・ブロックマンと婚約していましたが、7年間の交際の末、2023年に破局しました。
②ジーノ・バレッリ(演:ジョー・マンテロ)
ゲイ向け新聞「ネイティブ紙」の記者であり、パトリックの恋人がジーノです。正義感が強く、パトリックの秘密主義に不満を持っています。自身も寸でのところで殺人鬼の犠牲となりかけたことから、執拗に犯人捜しを続けます。
演じたジョー・マンテロは俳優兼監督として、さまざまな舞台・ドラマに関わっています。マーフィー作品との関わりも深く、『ノーマル・ハート』は舞台版・映画版の両方に出演、Netflix版の映画『ボーイズ・イン・ザ・バンド』では監督を務めました。長らく劇作家のジョン・ロビン・ゲイツと交際していましたが、2002年に破局し、2018年からはアパレル関係の男性とパートナー関係にあります。
③アダム・カーペンター(演:チャーリー・カーヴァー)
親友がセントラルパークで行方不明となったのをきっかけに、犯人探しに取り組むことになる、真面目な青年がアダムです。ジーノに協力を求め、ともに行動するようになるほか、医師のハンナや写真家のテオとも深い間柄となります。
ドラマ『デスパレートな妻たち』で注目されたチャーリー・カーヴァーは、『ボーイズ・イン・ザ・バンド』ではカーボーイ役、『ラチェッド』では看護師役と、ここ最近ライアン・マーフィー作品に立て続けに出演しているほか、本作では脚本家チームの一人としても名を連ねています。双子のマックスも俳優で、たびたび揃って出演しています。
④ハンナ・ウェルズ(演:ビリー・ラード)
ファイア島のシカの間で拡がる謎の感染症に興味を持ち、研究に取り組む医師がハンナ・ウェルズです。アダムと親しくなり、精子提供をうけて妊娠もするのですが……。
ビリー・ラードはシリーズではおなじみの常連俳優です。母親は、2016年に亡くなった『スター・ウォーズ』のレイア姫で有名なキャリー・フィッシャーです。
⑤バーバラ(演:レスリー・グロスマン)
パトリックの離婚調停中の妻がバーバラです。パトリックの秘密をジーノに教えるなど、どこか激しい性格の持ち主ですが、離婚成立後もパトリックとは深い関わりを持ち続けます。
ビリー・ラードと同じく、シリーズに欠かせない俳優の一人、レスリー・グロスマン。マーフィー作品では、他にも『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』に登場します。
⑥フラン(演:サンドラ・バーンハード)
レズビアンの女性フランは、生物兵器実験という政府の極秘計画を知る人物であり、ハンナにその情報を入れます。のちに占い師となって、キャシーの店で働きます。
サンドラ・バーンハードは、70年代からスタンドアップ・コメディアンとして注目され、その後は『ロザンヌ』や『アリー my Love』など数々の作品で人気の女優です。マーフィー作品では『POSE/ポーズ』でも印象的な役柄で登場。私生活では、バイセクシャルを公言し、女性パートナーと一女を育てています。
⑦サム(演:ザッカリー・クイント)
エロティック・アートのキューレターであり、写真家テオの支配的な恋人がサムです。裕福でファイア島に別荘を持っています。過激なSMプレイ好きであり、傲慢な性格とお金で人を操ろうとします。
ザカリー・クイントは、ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』や『HEROES/ヒーローズ』、映画『スター・トレック』の若きスポック役などで人気の俳優です。本シリーズの常連でもあり、『ボーイズ・イン・ザ・バンド』にも主要キャストで登場します。俳優のジョナサン・グロフ、モデルのマイルズ・マクミランらとの交際が有名です。
⑧テオ(演:アイザック・コール・パウエル)
ゲイのエロティック写真家であり、サムのサポートで仕事を得ている恋人です。のちにサムの裏の顔を知って別れ、アダムと愛し合うようになります。
『ウエスト・サイド・ストーリー』のトニー役などミュージカル俳優としても高い評価を得ているアイザック・コール・パウエル。本シリーズは前シーズン10に続き、2度目の抜擢です。
⑨キャシー(演:パティ・ルポーン)
かつては有名な大歌手、現在はゲイ専用サウナ「ネプチューン・バス」のオーナーにしてときおりラウンジで歌う初老の女性がキャシーです。占い師の店も経営しています。
見事な歌を披露するパティ・ルポーンは、実際、『エビータ』と『ジプシー』で2度トニー賞主演女優賞に輝くミュージカル界の大スターです。映画やドラマへの出演も多く、マーフィー作品では『ハリウッド』や『POSE/ポーズ』にも登場します。
⑩ヘンリー(演:デニス・オヘア)
ゲイのコミュニティや人脈について詳しい、謎の老人がヘンリーです。やがてその正体が明らかになります。
シリーズでは1作目の作品から常に欠かせない常連俳優のデニス・オヘア。他にも数々の映画やドラマで独特の存在感を放つ実力派俳優です。2011年にデザイナーのヒューゴ・レッドウッドと同性婚し、養子を一人育てています。
⑪ホワイトリー(演:ジェフ・ヒラー)
カクテルの「マイ・タイ」を好み、男を誘う正体不明のゲイの男です。
演じたジェフ・ヒラーは、マーフィー作品は初抜擢でしたが、この後、ドラマ『ザ・ウォッチャー』にも出演しています。他にも、数多くの映画やドラマで異彩を放つ性格派俳優として知られ、特に現在も続くドラマ『サムバディ・サムウェア』ではヒロインのゲイの親友を演じ、非常に高い評価を得ています。私生活では、すでに同性婚を果たしています。
⑫ビッグ・ダディ(演:マシュー・ウィリアム・ビショップ)
黒革のマスクを被ったマッチョな大男であり、「ビッグ・ダディ」と呼ばれています。神出鬼没で、ときに人を襲いますが、その正体はおろか顔すら謎に満ちています。
マスクを被っているため、その屈強な肉体しかわかりませんが、演じているのは俳優兼ボディビルダーのマシュー・ウィリアム・ビショップです。
全10話のネタバレあらすじ
第1話「迫る闇」
1981年のニューヨーク、ファイア島のシカの間で拡がる謎のウイルス。調査するハンナ・ウェルズ医師が人への感染を危惧する中、マンハッタンではゲイを狙った殺人事件が連続し……。
NY市警の刑事パトリックは、妻バーバラと離婚調停中ながらいまだゲイであることを隠して表立った捜査もできず、恋人である「ネイティブ紙」の記者ジーノからひどく責められていました。
一方、セントラルパークで革マスクの大男を目撃し、その後行方不明となった友人サリーのことを探すアダム。警察は消極的で協力を得られず、自ら写真家のテオに接近し、「ビッグ・ダディ」と呼ばれる男を突きとめますが、彼は2年前に死んだと言われ……。
パトリックから事件のあったゲイバー「ブラウンストーン」の名を聞き出したジーノは、一人で調査をはじめます。美術収集家のヘンリーに近づき、カクテルのマイ・タイを好む男の存在を教えられます。しかしその帰り道、酒に混入された薬のせいで意識を失い、何者かに拉致されてしまうのでした。
第2話「沈黙と秘密」
監禁されたジーノは、海兵隊の刺青があったことで拷問の直前に解放されます。
テオの恋人でエロティック・アートのキューレターであるサムは、長引く下痢の薬をハンナから処方されますが、同じ待合室には、ジーノを監禁した眼鏡の男ホワイトリーもいました。
アダムから友人探しの相談をされたジーノは、真剣にとりあってくれない警察に対する怒りから、一緒に抗議活動に踏み切ります。アダムは警察に拘束されますが、ひそかにパトリックから捜査は自分が秘密裏に行うと諭され、解放されます。
訪ねてきたバーバラから、パトリックが隠していたバンダナやレザーグッズの入った箱を見せられたジーノ。無理やり、レザー・バーにパトリックを連れていき、真相を問い詰めようとした矢先、バーの中で、マイ・タイを差し出されて飲んだ男が殺害されてしまうのでした。
一方、サムは、地下室に裸の若い男を監禁し、過激なSMプレイの相手としていました。
また連絡をうけて別の現場に駆け付けたパトリックが見たものは、切断され、壁に吊るされたいくつもの手のひらでした。
第3話「火事」
ハンナに連絡をとってきた一人のレズビアン、フランから聞かされた、政府による「ペーパークリップ作戦」。米ソ冷戦下の1952年、人間と動物の病気を混ぜて生物兵器を作り出そうとした計画であり、政府は1年前から秘密裏に実験を再開しているというのです。
フランは、ハンナに、最近増えている皮膚疾患や下痢の患者たちとの関係を調べるよう訴えます。
サムの地下室からなんとか逃げおおせた男が警察に駆け込みます。捜査にやってきたパトリックに、サムは同意の上でのプレイだったと主張。そしてパトリックの正体を知っていると言わんばかりに、同僚の前で同じことしてやるとささやき……。
何もできずにサムの家を後にしたパトリック。ジーノを監禁した犯人はサムとは別人だと確信しつつ、なおいらだつジーノに、パトリックはかつてレザー・バーに出入りしていた事実を認めます。
ジーノに諭され、レザー・バーに一人潜入捜査したパトリックは、怪しげな男を尋問しようとして、思わず激しいSM行為に欲情してしまうのでした。
ジーノからホワイトリーの似顔絵を渡されたアダムが、ゲイバーでテオに話をきいていたところ、テーブルにマイ・タイが運ばれ……。しかし次の瞬間、ビッグ・ダディが放った火で火災が発生。複数の死者も出た中、アダムらはみな病院に搬送されますが、その中に、バーで自分を誘おうとしていたホワイトリーもいるはずだと気づいたアダム。連絡を受け、病院にかけつけたジーノとパトリックが、必死にホワイトリーを探す一方、偶然、調査のため病院に居合わせたハンナが、運ばれたゲイたちに対し、ひそかに血液検査を実施していました。
ジーノは、ホワイトリーを発見しますが、逆に捕えられ、遺体安置所の冷蔵庫に閉じ込められてしまいます。
第4話「停電」
寸でのところで、パトリックに救出されたジーノは、若者が行方不明になったゲイサウナ「ネプチューン・バス」の女性オーナー兼歌手キャシーのもとを訪ねます。キャシーは、コミュニティに大変な災いが巻き起こっているのに、警察は動かない怒りをあらわにします。
かたやパトリックが、腐敗し始めた傷だらけの変死体の発見現場に駆け付けると、以前見たことのあるゲイの男でした。
サムの裏の顔を知り、別れを告げたテオと、アダムが結ばれます。電力不足で計画停電が敢行される中、サムから呼び出されるアダム、バーバラからパトリックの真実を聞き出すよう助言されるジーノ、そしてパトリックは、捜査情報が「ネイティブ紙」に漏れていることを疑われ、ついに上司にカミングアウトします。
さらにパトリックは、ホワイトリーからの電話で、セントラルパークに呼び出されたところ、ビッグ・ダディに襲われます。帰宅したパトリックを、ジーノが待っていました。
パトリックは、ついに裏で多くの男たちと遊んでいた事実を白状。ショックから意識を失い、病院に運ばれたジーノは、感染症だと診断されてしまいます。
その頃、ゲイの青年2人がセントラルパークでホワイトリーを発見し、後をつけますが、3人で乗ったエレベーターが停電で停止してしまい……。
第5話「厄運」
道端で「占い師募集」の看板を見かけ、ふいに店内に入ったフラン。そこには、占い師業も営む「ネプチューン・バス」のオーナー、キャシーがいました。雇いの占い師が全員辞めたと知り、働きたいと申し出たフランに、キャシーは、タロットカードとその説明をすべて明晩までに覚えてくるよう言い渡します。
アダムと、アダムから精子提供を受け妊娠したハンナがたまたま店を訪れ、働いていたフランと再会します。フランが2人のためにタロット占いをすると、1枚しかないはずの「死」のカードが3枚揃うという不吉な結果が出てしまいます。後日、やってきたテオやジーノにもやはり不吉なカードが並び、ジーノは恐ろしい幻想まで見てしまうのでした。
またハンナは、火事で運ばれたゲイたちの血液検査の結果、全員赤血球の数値が低いこと、それは自身とアダムに当てはまる事実に気づきます。
パトリックとバーバラの離婚が成立。しかし、サインした場で、バーバラが倒れてしまいます。入院したバーバラの代わりに自宅にやってきたパトリックは、クローゼットに隠れていたビッグ・ダディに襲われますが、その後、警察による警備にも関わらず、バーバラも襲われて死に至るのでした。
一方、監禁した青年2人にホワイトリーが見せたもの。それは、さまざまな犠牲者たちの体の一部を組み合わせてつくった一体の遺体であり、それをゲイの権利の「番人」としてプライド・パレードで展示する計画だと告白します。
第6話「遺体」
パトリックとジーノがハンナを訪ね、血液採集をした火事の被害者の中に殺人犯がいるはずだと情報提供を求めますが、守秘義務を理由にハンナは拒否。逆に、ジーノの腕の染みを発見し、検査をすすめます。
ファイア島の砂浜で、革のマスクをした男の腐乱遺体を見つけたという情報が、パトリックのもとに極秘に寄せられます。パトリックはそれをサムに知らせ、2人で島に向かいますが、遺体を前にしたところに、ジーノを連れたヘンリーが出現。
ついに、過去のある関係と出来事が明らかになります。
1979年、ファイア島のパーティーで出会ったパトリックとサム。クスリ、そして一人の青年ビリーを交えたSMプレイの最中にビリーが誤って事故死。遺体の処理に困った2人が頼ったのが、ゲイ・コミュニティの陰のフィクサー、ヘンリーだったのです。しかも、遺体を解体するため、ヘンリーが呼び寄せたのがホワイトリー……。
また、ヘンリーがジーノを連れてきたのは、警察に対する派手な批判を繰り広げるジーノの口封じを、警察とつながる裏社会から依頼されていたためでした。
パトリックは、あの時の解体屋が、連続殺人犯ではないかと気づきます。ジーノは、パトリックの制止を振り払い、ヘンリーの案内でホワイトリーとの面会に向かうのでした。
ジーノを車に残し、ヘンリーだけがホワイトリーとの待ち合わせ場所に向かいますが、ホワイトリーはヘンリーを襲って拉致。それを車から目撃したジーノは、パトリックに電話して助けを求めます。
第7話「番人」
パトリックとジーノは、ホワイトリーの解体現場に潜入し、拘束されたヘンリーを発見したものの、背後からホワイトリーに襲われてしまいます。
パトリックだけが別に拘束され、心臓を奪われそうになりますが、ジーノとヘンリーに助けられます。ホワイトリーが真犯人ではないかと薄々気づいていたと告白するヘンリーが、自らの腕を切り離して拘束を解き、ジーノとともに脱出に成功したのです。パトリックがホワイトリーを射殺します。
犯人の死亡記事とパトリックの顔写真が掲載された「ネイティブ紙」が発行され、パトリックは警察を自ら辞職するのでした。
ホワイトリーが作った遺体「番人」が7人の物であり、サリーが含まれていないことに気づいたアダムは、他にも失踪者が多くいる事実から、別の殺人犯がいるはずだとジーノに訴えます。
バーバラの幻を見て罪悪感に苦しむパトリック。一方、ハンナは、つわりとは違う自身の体の異変にはっきりと気づいていました。
第8話「ファイア島」
気分転換のため、ジーノとパトリックは、アダムやテオを誘ってファイア島にバカンスに出かけます。しかし、テオは嘔吐を繰り返し、ジーノもまた、パトリックと自分にある不可解な染みが増えたことに過度な不安を覚えていました。
散歩していたジーノの前に、ヘンリーが現れます。裏社会の人物を説得し、ジーノの命を救ったと告げ、さらに愛を告白しますが、ジーノは軽くあしらいます。
たびたび出現していた革マスクの男が、別荘にいたジーノとアダムを襲います。パトリックが射殺しますが、目を離したすきに、その体は忽然と消えていました。
サムの依頼で占いをするため島に来ていたフランが、パーティーの場でゲイたちを占うと、ことごとく現れる「死」のカード……。
気落ちするヘンリーを、男たちが互いを求め合う林「ミート・ラック」に誘ったサム。そこには、サムによって薬を飲まされ、酩酊状態で木に吊るされた半裸のテオがいました。しかし、ヘンリーがテオに触れたとき、突然、革マスクの男が出現。ヘンリーが慌てて立ち去ると革マスクの男も消え、代わりにシカの角をつけた複数の男たちが現れ、テオを優しく救出するのでした。
第9話「レクイエム1981/1987パート1」
テオの葬儀の最中、突然倒れたサム。病院で目覚めたサムは、テオやSMプレイ中に死んだビリーが病院で働いている幻を見ることに……。感染症に罹り、患者となった知人たち、そして最後に見せられたのは、同じように変わり果て見捨てられた自分の姿……。
さらに、自分自身が拘束されSMの標的となる姿、砂浜で革マスクの男に追われる姿……。シカの角をつけたテオらが現れると同時に、サムが男の革マスクをはぎ取ると美しい青年が現れます。サムと青年がキスする姿を見たヘンリーが、「よくやった」と言いながら、遺灰を海に巻き……。
時が過ぎ1987年。医師からも見放され、病床で変わり果てた姿のパトリックを見舞うジーノ。パトリックは、保険金を売って葬儀費用にしてくれるよう頼みます。
夜、目覚めたパトリックは、目の前に現れたウェディングドレス姿のバーバラに手を引かれて歩き出します。
バーバラに見せられたのは、ジーノとの出会い、またゲイであることを隠し、自分を偽ってきた過去、めめしいと父親から罵倒された少年時代……。
パトリックは、ジーノに看取られながら静かに旅立ちます。病室には、バーバラや革マスクの男も立って、2人の姿を見ていました。
第10話「レクイエム1981/1987パート2」
1981年、部屋でハンナが遺体となって発見され、アダムが駆け付けます。ハンナが遺したテープをもとに、真相を探るアダム。解剖医は、心不全の可能性が高いと言い、テオの死因と思われる肺炎や感染症とは無関係だと言い張るのですが……。
テープの中には、ファイア島のシカのこと、フランから聞いた話、そして性行為で感染し、免疫力が低下する病気の存在を疑う記録がはっきりと残されており、アダムにも同じ症状があることを指摘していました。
医師の診察を受けたアダムは、ハンナの記録を伝えますが、まったく信じてもらえず……。コンドーム使用を提唱するチラシを作り、キャシーのもとに持っていきますが、キャシーは今晩を最後にもう閉店するのだと……。
そんな中、41人のゲイが珍しいガンを発症しているとの記事が、ついにメジャー紙に掲載されるのでした。
1987年、パトリックの葬儀。そして、その後もAIDSにより死者数が拡大し続ける中、ジーノは自身の病と闘いながら、記者として政府への抗議運動や啓蒙活動を続けます。1991年、ついにジーノも旅立つのでした。
ネタバレ解説と考察
1.実話とモデルについて
既述のとおり、物語そのものはフィクションですが、AIDSウイルスの蔓延、ゲイ狩りの連続殺人、AIDSや殺人に対する警察の消極的な対応、マンハッタンの大停電などは、事実に即したものです。
特にAIDSというテーマを考えるうえで、やはり触れなくてはならないのが、2014年にライアン・マーフィーがテレビ映画化した『ノーマル・ハート』です。本作と同じゲイたちの間で謎の病が拡がり始めた1981年に始まる、AIDSとの闘いの物語であり、こちらは登場人物含めすべて実話に基づいているためです。
同映画で、マーク・ラファロが演じた記者のラリー・クレイマー、ジュリア・ロバーツが演じたリンダ・ローベンシュタイン医師などは、それぞれジーノとハンナのキャラクターのモチーフとなっているのは明らかでしょう。
ヘンリーのキャラクターに関しては、その著作や生涯が映画化・ドラマ化され、長らくゲイ・コミュニティ界のセレブ的存在として有名だったクエンティン・クリスプをどこか彷彿とさせます。
ちなみに、ニューヨーク郊外のファイア・アイランド(本作の和訳では「ファイア島」)は実在し、ニューヨークのゲイたちのバカンス先として世界的に有名です。またジーノが働く「ネイティブ紙」も実在し、AIDS禍では重要な言論空間を提供していました(1997年に休刊)。
2.映画『クルージング』との相違点
ハード・ゲイの連続殺人事件という点では、1980年に公開された映画『クルージング』を思い出す人も多いでしょう。レザー・バーに集うゲイの連続殺人事件を捜査するため、潜入捜査する刑事の姿を描いたものであり、主人公をアル・パチーノが演じていました。
当時は、ゲイの立場を不当に貶める内容だとして、ゲイ当事者から激しい上映禁止運動が起きるなど賛否両論巻き起こしました。そうした状況含め、ライアン・マーフィーが本映画を念頭に置いていたことは間違いないでしょう。
3.ビッグ・ダディの正体とは?
最初は、神出鬼没の恐ろしい殺人鬼として登場する「ビッグ・ダディ」ですが、後半になるとその正体が何なのか、次第に明らかになってきます。
つまり、「ビック・ダディ」は、AIDSウイルスそのもの、あるいはそれがもたらす恐怖や死というものを、擬人化させた存在なのです。
本シーズンは、シリーズの中でも際立ってグロテスクなスプラッター・シーンが多くありますが、それとは対照的に、直接的ではない寓意的な描写がしばしば挿入されているのも特徴です。
例えば、「死」の描き方。シカの角をつけた死人たちの出迎えなどであり、第8話のテオの死、第9話のサムの死の描写など非常に印象的でした。第1話から登場し、随所に登場する「ビック・ダディ」もそうした寓意的存在の一つでしょう。
『アメリカン・ホラー・ストーリー:NYC(シーズン11)』の評価・感想
全10話を視聴し終えてみると、非常に完成度の高いシーズンだったと思います。さまざまな要素が盛り込まれているため、前半はやや詰め込み過ぎでわかりづらい印象を受けましたが、中盤を過ぎ、どんどん引き込まれていきました。
特に上述した通り、グロテスクでなまなましいシーンと、幻想的で寓意的なシーンの組み合わせは見事な構成だったと思います。
11ものシーズンが続くと、どうしてもマンネリ化し、食傷気味になるのが常ですが、さすが『アメリカン・ホラー・ストーリー』。実際、全米の批評家筋からもおおむね好意的な評価だったようです。
そして、2024年1月現在、最も新しいシーズンが、全米で2部にわけて放送中のシーズン12『アメリカン・ホラー・ストーリー:Delicate』。
「妊娠」をテーマにした物語が展開します。
最終的にはシーズン13まで製作される予定のようです。